研究課題/領域番号 |
26780444
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥井 遼 京都大学, こころの未来研究センター, 連携研究員 (10636054)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | わざ / 現象学 / 人形浄瑠璃 / サーカス / 人形劇 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、以下の通り(1)海外での学術調査の進展、(2)国際会議での発表、(3)国際会議の開催を通じて、順調に計画を遂行することができた。 (1)海外での学術調査の進展:パリ第五大学身体技法研究所が発行している研究誌『CORPS』『Ethologie & Praxeologie』を読解し、わざの習得のみならず、スポーツ教育、健康、ハンディキャップ、レジャー、新スポーツ、アートなど、身体運動に関する多彩な先行研究を調査した。平行して、前年度に開始した新規調査(フランス国立サーカス学校)を継続するともに、新たな調査(フランス国立人形劇学校)も開始した。 (2)国際会議での発表: 2016年6月には、国際人類学・民族科学連合年次会議にて、数年来関係を築いてきた台湾およびフランスの教授とともにコロキアムに登壇した。また、7月には第35回国際人間科学会に参加し、人形浄瑠璃の稽古場面に関する研究発表を行い、北米での研究動向に関する示唆を受けた。次いで、8月に国際教育哲学会にて発表し、イギリスやベルギーをはじめ、各国の研究者たちと情報交換をし、教育学の身体論研究に関する新たな示唆を受けた。 (3)国際会議の主催:パリ大学を拠点として、2016年6月27日~7月1日の日程で、身体の哲学国際会議(International Conference of Body)に主催者として企画・運営に加わった。これは、フランスを中心として、ブラジルのNatal大学、日本の京都大学、パリのUNESCO等から研究者を招聘し、身体の哲学に関する国際的な研究ネットワークの形成を図るものである。この会議において、本研究では、日仏会議「生きた身体の経験」(Journee d’etude franco-japonais, “Living body’s experience”)を主催した(6月29日)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、身体を使った「わざ」の稽古場面の観察・分析を通して、近代教育における知識伝達のあり方を根本的に見直し、新たな「学び」モデルを構築することにある。特に本年度は、日本学術振興会海外特別研究員として、パリ第五大学を拠点に研究活動を発展させたことにより、以下の大きな成果が挙げられた。 (1)フィールド調査の進展・拡大 昨年度から開始したサーカス・アーティスト養成学校(フランス国立サーカス学校CNAC)における調査を継続し、稽古や公演場面の参与観察およびインタビューを行った。また、フランス国立人形劇学校(Ecole Nationale Superieure des Arts de la Marionnette)をフィールドとして、新たな調査に着手した。具体的には、学校での授業に居合わせ、教師と生徒のやり取りを観察することで、若いアーティストたちの作品制作の過程に立ち会った。分析を進める中で、日本の人形遣いの「わざ」を多角的に考察するための好材料が明らかになった。 (2)共同研究の成果の発表・出版 パリ第五大学における共同研究に参加したことにより、複数の研究発表や出版に結実しつつある。共同研究とは、2016年5月より開始され、研究機関(パリ第五大学、レンヌ大学など)、国立高等芸術学校(サーカス学校、人形劇学校など)が、フランス政府・レンヌ市より大型の補助を受けて進める3年間のプロジェクト(Chaire ICiMa)である。これは、研究者・アーティスト・行政が共同で、学術研究および文化創造を目指すものである。本研究では、調査および研究発表などが評価され、二回の研究発表および二本の論文(国際共著)に結実した。これにより、「わざ」習得に関する身体的相互行為の分析を、より実践的な現場で鍛え上げるのみならず、現地の学術・文化・教育をつなぐ公共的研究に貢献させることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後、平成28年度中の研究調査・分析の進展を受け、パリ第五大学客員研究員を兼ねてフランス滞在を延長する計画である。本年度と同様、アーティスト養成学校での調査を継続するとともに、学会およびセミナールを重ねる方策である。 調査面では、国立サーカス学校、国立高等人形劇学校での調査を継続し、フランス現代芸術の教育実践を題材として、フランス芸術教育思想・実践の解明を図る。とくにフランス人形劇は、伝統的なマリオネットのみならず、様々な形式の人形を開発することで、新しい芸術・教育の手段として注目を集めている。これまで本研究では、日本の人形浄瑠璃の「わざ」について分析してきたが、フランスの人形劇を新しいフィールドとすることで、人形に関わる身体技法について、より広い視野から捉え直すことが期待される。 これを踏まえ、本研究最大の目的である「身体的相互行為に基づく学びモデル」を構築する。それまでにフランスで得た調査データも踏まえつつ、また、フランス哲学を積極的に取り入れることで、身体による学びに関する総合的な考察が可能になるだろう。成果は、『CORPS』、『Ethic and Education』、『教育哲学研究』等への投稿に結実させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費ににかかる費用が削減され、次年度使用額がわずかに生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
当使用額は、平成29年度に執筆予定の英語論文の文章校正費として活用する計画である。なお、該当論文は、国際学会誌『Ethic and Education』に投稿予定である。
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