一年間の研究期間延長を行った最終年度では、再度構築した研究計画に従って、研究成果の発表および追加の史料調査・研究交流を行った。研究成果の発表に関しては、2015年に西洋史学会で行った報告をもとに論文を執筆し、『西洋史学』に投稿し、「19世紀前半アイルランドにおける教育改革と国民統合―国民学校制度の成立 1821年-1831年―」として同雑誌に掲載された。この論文は、アイルランド教育史上の画期とされる国民学校制度(1831年)に関する従来の対立する二つの定説に対して、両者を総合する新しい解釈を提示したことにその意義がある。具体的には、1810年代までの公教育政策理念が1820年代に転換して国民学校制度の成立を帰結することを明らかにしたこと、宗教教育による統合ではなく、宗派が混在する「市民社会」としての学校に統合を期待する統合の理念が具体化された事例として国民学校を位置づけるという点で、アイルランド教育史に新たな知見をもたらすものと言いうる。他に比較史的な考察の部分で本研究と関連するものとして、イングランドの国民協会に関する論文を執筆し、History of Education誌に受理された。 史料調査としては、アイルランド国立公文書館、アイルランド国立図書館およびRepresentative Church Body Libraryで追加の史料調査を行ったほか、トリニティ・カレッジ・ダブリンのスーザン・パークス名誉教授と面談し、研究に関する助言を受けた。その他、国内の西洋史・アイルランド史・教育史関係の学会やワークショップに参加し、研究交流を行った。
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