研究課題/領域番号 |
26780453
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山梨 あや 慶應義塾大学, 文学部, 准教授 (40439237)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 学校と家庭の連絡 / 地域社会と学校教育の連携 / 農村における小学校の役割 / 近代日本教育史 / 戦前と戦後の連続性、不連続性 / 都市と農村 |
研究実績の概要 |
本年度は①近代日本の学校教育における「学校と家庭の連絡」という教育目標の導入と変遷の過程に関する研究、②「学校と家庭の連絡」への取り組みの実態を、1900~1930年代の長野県下伊那郡上郷尋常高等小学校を事例として検討する研究を行った。 ①に関しては「学校と家庭の連絡」導入の全国的傾向を明らかにし、②で検討する農村小学校における「学校と家庭の連絡」への取り組みと都市における取組みを比較検討することを念頭に、東京の公立小学校並びに青山師範学校付属小学校における「学校と家庭の連絡」に関係する資料を収集し、分析作業を進めている。現在、資料の収集と分析を同時進行で行っているが、農村小学校と比較して、少なくとも東京という都市部では学校教育に対置され得る近代的「家庭」が形成されつつあったこと、また農村部の小学校と比較すると学校と家庭を取り巻く地域社会の存在は捨象される傾向があることが明らかにされた。 ②に関しては、長野県下伊那郡上郷尋常高等小学校の学校関係資料に加え、役場文書、全村全戸に配布された村の新聞『上郷時報』、さらには産業組合関係資料を相互的に分析することにより、小学校は子どもの教育への理解と協力を家庭のみならず地域社会に求めたこと、また地域社会の様々な機関(産業組合、農会)は修学旅行や運動会などの学校行事に積極的な協力を行い、経済的に困難な状況下で学校生活における児童の「平等性」の確保に尽力したことが明らかにされた。その結果、当該小学校における戦前期の「学校と家庭の連絡」の概要を把握することができた。本研究成果の一部については、日本社会教育学会第61回研究大会(於:福井大学)において口頭発表し、『生涯学習・社会教育研究ジャーナル』第8号への掲載が決定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①の、「学校と家庭の連絡」という教育目標の学校教育への導入に関する全国的動向についての研究に関しては、教育関連書籍のみならず、小学校発行の「学校家庭連絡通信」に類する資料を収集、分析することで、当時の情報発信の中心地であった東京の動向を明らかにし、②で検討する農村の状況と比較検討することが可能となった。特に、最新の研究成果に基づく教育理念や教育方法の導入に中心的な役割を果たしたと考えられる青山師範学校付属小学校の資料は、当時の理念・政策レベルで検討されている「学校と家庭の連絡」のありようを具体的に検討する好例と言える。 ②に関しては、検討対象としている上郷尋常高等小学校の戦前の学校関係資料についてはほぼ通覧を終え、「学校と家庭の連絡」への取り組みに関する全体像を把握することができた。また、資料の分析中、学校教育と地域社会の様々な機関(役場、産業組合、農会)との協力関係が密であったことを踏まえ、これらの資料の分析も行っている。また、当該小学校の周辺地域の小学校も、「学校と家庭の連絡」に関する取組みを展開していることから、併せてこれらの小学校関係文書や地域資料の分析にも着手している。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の研究課題の遂行は概ね順調であるが、研究を遂行する過程で新たな課題が生まれている。 ①の「学校と家庭の連絡」導入の全国的傾向については、学校教育の成果をより浸透させるために家庭教育に対する政策がどのように構想されていたのかを検討することが必要である。その際、文部省のみならず内務省関係の資料を比較参照し、「学校と家庭の連絡」に関する動向を多面的に明らかにすることが必要とされる。また、都市部の小学校における「学校と家庭の連絡」への取り組みに関しては、都市部の小学校関係資料は戦災等の影響により、農村部より散逸する傾向が著しいという問題がある。また、分析中の青山師範学校付属小学校は、階層的な偏りがあることも否めない。これらの問題を解決するため、複数の小学校資料の収集をさらに行い、検討時期や検討地域の不足を補完すること、また階層的な偏りについても可能な限り配慮しながら研究を遂行する必要がある。 ②の上郷尋常高等小学校における「学校と家庭の連絡」への取り組みに関しては、学校資料及び地域資料の分析を進める過程で、近隣の小学校でも同様の取り組みがなされていたこと、また当時の経済状況の悪化に伴い、長野県全体で「学校と家庭の連絡」を重視する方針が打ち出されていたことが明らかにされた。当該小学校の学校関係資料に加え、可能な限り近隣の小学校資料、また長野県教育史関係資料を参照し、農村の小学校においてなぜ「学校と家庭の連絡」が必要とされていたのかを明らかにしていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた理由の第一は、掲載が決定したジャーナルの刊行が遅れたため、雑誌論文別刷印刷代として計上していた金額を次年度に支出することになったこと、先の状況から、雑誌論文のアブストラクトの英文校正費用も次年度に支出することになったこと、第二に「学校と家庭の連絡」に関する学校関係資料(古書)は、個々の資料の価格差が大きく、次年度予算に繰り越し、次年度分と合算して支出することが合理的であるためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
昨年度からの繰り越し分に関しては、論文アブストラクトの英文校正代、別刷印刷代、「学校と家庭の連絡」関係書籍の購入に充当する。 今年度の助成金の主な使途は、物品費(主に『学校と家庭の連絡』関係資料(古書)の購入及び資料保存用のフラットスキャナ)、旅費(長野県飯田市における学校関係資料の調査、閲覧、収集 および研究成果を発表するための学会出張)、その他(資料複写代、論文投稿・別刷印刷・英文校正費用、通信・運搬費)である。
|