本研究は,児童・生徒に対する懲戒の公正性・透明性を担保する手続制度の在り方について,教育学と法学の学際的視点から検討することを目的としている。平成29年度は,主として①生徒の懲戒に関する裁判例の収集・分析,③懲戒の運用について公立高等学校の校長に対しヒアリング調査を実施した。その結果,主として以下の点が明らかとなった。 第一に,学校設置者が懲戒に関するガイドラインを定めている場合には,特段の事情が存在しない限り,校長はガイドラインを逸脱することがないように,適正な手続により,懲戒を行う「職務上の法的義務」を負うとした裁判例が存在している(高松高等裁判所判決平成29年7月18日)。この事案では,県立高等学校の元生徒が,違法な手続によって自主退学を強要された等と主張して,学校設置者を相手に損害賠償を請求する訴訟を提起した。判決では,退学勧告を行う際には県教育委員会のガイドラインに従って生徒に「弁明の機会」を付与するものとされていたが,これを実施し難い特段の事情がないのにも関わらず,その手続を履践しなかったという校長の過失が認められ,元生徒の損害賠償請求が一部認容された。 第二に,懲戒の規定・運用は,地方公共団体ごと,また同一の地方公共団体内であっても学校ごとに異なり,学校の慣習・前例が重視されている。また,「期限の定めのない停学等」に対する認識には地方公共団体によって温度差がある。生徒への懲戒の言い渡しの際には,解除の期限を告知しないのが通例であるという認識が一般的なところがある一方で,通知により終期を明示することを全公立高等学校に求めているところも存在している。
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