本年度は前年度までの研究計画・成果を踏まえ、日本統治初期の台湾総督府の「学校」設置政策に対する台湾住民の対応について明らかにするとともに、学校儀式の挙行をめぐる全体像を明らかにした。 具体的には、公文書および各種新聞・雑誌記事を基に、台湾の人々に対する教育機関として国語伝習所・国語伝習所分教場から公学校へと「学校」設置政策が具体的に進められていくという、日本統治初期の教育制度の形成過程について明らかにしたうえで、各学校における「勅語奉読式」の挙行状況、および「芝山巌事件」の慰霊を目的としてはじまった「芝山巌祭」の挙行状況についての具体像を提示した。以上の点を基に、教育を通じた「教化」が、日々の授業や教科書を通じて展開されるとともに、学校儀式という感覚に訴える形式で広く進められていく様子を明らかにした。また、現地の人々にとっては、台湾において従来行われていた、儒教的な教育をベースに、台湾総督府による教育を「受容」しうる余地が存在していたことを指摘した。 以上の研究成果について、学会発表(教育史学会)をおこない、多方面から幅広い意見を受けた。また、『中国文化研究』および『奈良歴史研究』に論文を公表した。 また、研究期間全体を通じた研究成果として、著書(『自由・平等・植民地性―台湾における植民地教育制度の形成―』、台湾大学出版中心)をまとめ、日本統治初期の台湾における植民地教育制度の形成過程において、学校儀式を通じた現地の人々に対する教化の具体相について明らかにした。
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