本研究の目的は、不安定化する現代の〈学校から仕事へ〉の移行過程のなかで、ノンエリート若年女性がいかなる「女性性」を求められ、いかなる「女性性」を構築しているのかを探ることにあった。具体的には、東京都立大学/首都大学東京「高卒者の進路動向に関する調査」グループが都内の二つの公立普通科高校を卒業した若者を追跡して2002年(高3時)から2008年(高卒5年目)にかけて実施したインタビュー調査の対象者のうち、いわゆる偏差値ランクでいうと「最低校」のB高校を卒業した高卒女性4人に対し、2012~2013年(高卒10年目)、2015年(高卒12年目)、2016年(高卒13年目)にインタビュー調査を行うことを通じて、それぞれのライフヒストリーと、そのライフヒストリーから浮かび上がる彼女たちの労働、生活、文化を浮かび上がらせた。労働に関しては、本研究の目的に照らして、「女性性」が大きく関わる性的サービス労働にとりわけ焦点を当て、その性格を明らかにするにとどまらず、性的サービス労働をめぐる言説の批判的検討も行った。また、調査対象者たちの認識に少なからず影響している「自己責任論」をめぐっても、調査結果にもとづいた分析を行った。 社会に期待される「女性性」についての考察は、性的指向が異性愛で、社会に割り当てられた性別と自認する性別が同じ女性だけを対象にしていては進まない。そこで、最終年度には、レズビアンとFTMトランスジェンダーの若者6人にもインタビュー調査を実施した。地理的条件も分析軸に入れるために、地方在住の若者を対象にした。 そのほか最終年度には、2002年から実施した東京での調査の31人分のデータ全てを再分析した。その際、「地方」ではないからとこれまでさほど検討されてこなかった、東京における空間的移動のありように注目し、それへの性別や階層の影響を分析した。
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