本研究の目的は,西日本の大都市の1つであるA市の複数の小学校を対象に,保護者の社会階層と子育ての関連を明らかにしようとすることである。具体的には,A市内の校区の状況の異なる4つの小学校から,それぞれ複数の家庭を選び,(1)家庭での保護者と子どもの関わりに関する参与観察調査,(2)保護者を対象とした質問紙調査,(3)学校での子どものふるまいに関する参与観察調査,以上の3つの調査を実施した。本研究では,こうした調査を通じ,日本の「教育格差」が生じるメカニズムを明らかにするとともに,「教育格差」を克服する処方箋についても,示唆を得ようとするものである。 平成26年度から平成28年度までの調査の結果,次のようなことが明らかになった。第1に,保護者の学歴・年収といった要素が,子育ての在り方に影響しているという点である。とくに年収が低い場合,取りうる選択肢が狭まる傾向が見られる。第2に,保護者の価値づけ(「いい学校」に子どもを通わせたい,あるいは「ブランド」のある地域に居住したい等)が,学歴や年収とは別に,子育ての在り方に影響している。そのため,同じような学歴・年収の家庭であっても,大きく異なる教育戦略を取る場合がある。第3に,以上のような要素に加えて,「男の子だから」「女の子だから」という性別役割意識の差が存在している。 なお,今回の調査は小学校入学以後の子育てに焦点をあてて実施したが,インタビュー調査等からは,小学校入学以前の子育て(習い事の差など)に,すでに大きな違いがあることがうかがえた。こうした問題については,今後,新たな調査を実施することで検討していきたい。
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