2020年度の研究実績としては,国際雑誌に掲載された英文の学力格差に関する文献のレビューや米国のSociology of Education Associationのオンライン学会に参加すること等を通じて、家庭背景と学校内外の環境のそれぞれがどのようなメカニズムで学力に影響するのかについて詳細に検討した。とくに親の関与(parental involvement)や影の教育(shadow education/ supplementary tutoring)の利用のあり方が国の文脈によって異なることや、米国でDouglas Downeyらが提唱するような学校効果の新しいとらえ方が、日本の学力格差の状況を国際的な視点から理解する上でも鍵になることがうかがえた。 研究期間全体を通じて、とくに本研究が重視してきたのは、現代の日本の学力格差を理解する上では、一時点や直近の数年間の変化を見るだけでなく、ある程度長いスパンで事象を理解し、かつ国際比較を交えながら日本の家庭背景や学校環境のあり方の学力への影響を理解するというスタンスである。TIMSSをはじめとする国際学力調査を用いた分析の結果、日本では家庭背景による学力や学習意欲の格差は近年(この20年ほどの間)、たしかに拡大傾向にある。その中で、学校にも必然的に家庭の格差が持ち込まれ、学校(その制度や実践)が果たしている役割はどうしても見えにくい状況にあるが、日本の学校は国際的に見た場合、かろうじてそうした格差を食い止める役割を担っている可能性が示唆された。ただし、教育拡大期が過ぎ、非正規雇用が増大するなど以前とは背後にある社会構造が異なる今、不利な状況にある生徒がさらに苦境に立たされることを避けるためにも、海外の取り組みを参考にしながら、日本でも単に平等な介入だけでなく、積極的な格差縮小に向けた取り組みを進めることが必要である。
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