最終年度となる平成29年度は、本研究の目的である、アクションリサーチを通した遠隔地との連携型による復興支援のモデルの例証と、大学・地域連携によるコミュニケーションデザインのマネジメントシステムの構築に注力した。そのため、勤務校の研究支援制度も活用することにより、デンマーク王国オールボー大学人文学部コミュニケーション・心理学科の客員研究員として滞在し、理論的観点の精緻化を図った。オールボー大学は1974年の開学以来、全てのカリキュラムにおいてPBL(Problem-Based Learning)を導入している。この実践に対し、UNESCOチェアプログラムに採択されている他、全学共同利用機関としてPBLアカデミーが設置され、広く教育実践の深化を目指している環境にて比較研究を進めた。 とりわけ、デンマークのオールボー大学での滞在の成果として、米国・サンタクララで開催された国際PBL会議において、共同研究者が情報処理モデルから発展させた「はしごモデル」をもとに、実践コミュニティにおける多様な主体の関係構築のあり方を発表した。さらに、東京で開催された国際ボランティア学会では、シリアを対象に実践的研究を展開する研究者と共に企画セッションを催し、多様な人々の参画と協働によって構築する集合知の観点からコミュニティのレジリエンスを高めるためのモデルを構築し、参加者と共に検討した。 これらを通じて、困難な状況にある他者への支援が継続・発展するときに生じる「パッケージ化」という問題を深く掘り下げていくことになった。パッケージ化は支援主体の属人化を回避し、効率性も担保されるものの、支援者の二重性を生むためである。本研究の最終成果として、支援者と受援者を結ぶ、仲介者としての支援者の存在と機能についてとりまとめ、他者とを結ぶ「生きた言葉」が持つオラリティについて言語化した。
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