研究課題/領域番号 |
26780486
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
京免 徹雄 愛知教育大学, 教育学部, 講師 (30611925)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | キャリア教育 / キャリアパス / eポートフォリオ / 移行支援 / フランス / 比較研究 |
研究実績の概要 |
本研究では、フランスの中等教育に導入された移行支援プログラム「職業と教育・訓練の発見行程」(PDMF)のカリキュラムと実践を分析することで、社会的・職業的自立に向けたキャリア・パス形成の仕組みについて解明することである。そのために、具体的には活動の成果を記録したeポートフォリオシステムであるWebclasseur Orientation(WO)の分析を行う。 年度前半には、PDMFのカリキュラムについて文献調査を行い、学会発表等を行った。また、ポートフォリオ評価法およびeポートフォリオに関する国内の先行研究を収集し、フランスにおける実地調査の準備を行った。 その上で、2015年3月5日~3月11日にかけて、パリ、リール、リヨンの3都市において調査を行った。中学校2校と3つの進路支援機関を訪問し、WOの記録を入手するとともに、教員や進路指導相談員に対してインタビューを実施した。 詳細な分析はこれからであるが、一方の学校は比較的恵まれた地域にあり、進路情報の提供や探索のための手段としてWOを利用しており、PDMFとの関連はあまりみられなかった。もう1つの学校は恵まれない、いわゆる「教育優先地域」にある。同校では、「進路指導・教育パスポート」というWOの本来の理念通り、PDMFの成果を継続的に蓄積し、移行支援のためのキャリア・パス形成を試みていた。生徒が実際にWOを操作しながらPDMFの成果についてプレゼンテーションを行う様子も参観したが、全ての生徒がWOの意義を強調しており、進路学習に対するモチベーションを高める役割を果たしていた。 ただし、インタビューからは、WOの活用に関する教師および生徒の能力格差が示唆された。すなわち、WOを進路指導に活用できる教員が少ないという養成上の課題、そしてWOを使いこなせる生徒とそうでない生徒でPDMFの効果が異なるという課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「職業と教育・訓練の発見行程」(PDMF)の実践を記録したeポートフォリオ(WO)を入手し、関係者にインタビューをするというのが初年度の最大の目標であったが、それを達成することができた。調査予定地域の変更や、調査学校数が想定よりも少ないという課題もあったが、ある学校の全ての生徒の記録を入手できたため、サンプル数は予定よりも多くなった。生徒の職業価値観、成績等の情報も入手できたため、それらと合わせて詳細な分析を行うことで、「生徒の個性・適性や生徒をとりまく環境に応じたキャリア教育の効果を検証する」という研究全体の最終目的が達成できる見込みが立ったため、「おおむね順調に進展している」と判断できる。なお、研究を深化させるため、フランスの進路指導分野の研究者と協議することを当初から予定していたが、さらにフランス教育研究所を訪問したことで、デジタル教育の専門家と交流することができたのは、計画になかった成果である。得られた助言をもとに、「進路形成とデジタル・アイデンティティ」の問題にも切り込んでいきたい。
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今後の研究の推進方策 |
第1に、実地調査で得られたeポートフォリオ(WO)の記録を、生徒の個性・適性や生徒をとりまく環境をふまえて分析し、社会的・職業的自立に向けたキャリア・パス形成の仕組みを明らかにする。特に、恵まれた学校と恵まれない学校の比較については重点的に検討する予定である。さらに、教員や進路指導関係者のインタビューについても分類を行い、各属性に応じた傾向を抽出する。分析の過程でさらなる必要性が生じた場合は、再度フランスで追加の現地調査を実施する。 第2に、フランスの PDMFの実践、およびeポートフォリオの分析から得られた知見を応用し、日本の文化・社会・政治状況およびキャリア教育の実態をふまえ、それにふさわしいキャリア・パス形成のための支援モデルを提示する。 第3に、関連学会での発表と論文投稿を通じて、上記の研究成果を積極的に公表する。現在、日本比較育学会などの国内学会や国際キャリア教育学会(IAEVG)などの国際大会での発表を予定している。
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