第1に、フランスで行った実施調査の結果について、特にキャリア教育のためのeポートフォリオシステムであるWebclasseur Orientation(WO)を中心に分析した。その結果、WOには、キャリアを構築する側と支援する側の双方に対して、そのプロセスを可視化するという教育効果があることが明らかになった。しかし、生徒が新たなツールに比較的スムーズに適応しているのに対して、その役割が長らく知育に限定されてきた教員にとっては容易でなく、「キャリア支援」という異分野、「ICT」という新技術、二重の意味での障壁に見舞われていた。 第2に、フランスのキャリア教育の展開を分析することで、普通教育における「労働・職業」の位置づけの変容とその背景にある要因を明らかにした。「労働・職業」の位置は、市民社会、資格社会、移民社会、グローバル社会といった多様かつ複雑な特徴をもった構造の中で、学校と教員の役割をどう規定するかに関わっており、教科に「労働・職業」を包含するには、まず市民育成のコンテキストでの捉え直しが求められることが示唆された。 第3に、上記の結果もふまえ、フランスのキャリア教育がどのようにして移行のためのキャリア・パスを作り出そうとしているか明確化した。さらに、日本との差異について分析し、3次元(習得内容―イニシアチブ―教育方法)からなるキャリア教育システムの国際比較モデルを開発した。フランスでは公的な専門家が、教科外でのガイダンスを通じて、進路に関する知識とコンピテンシーを育成しているのに対して、日本では教員が、社会での体験活動を通して、生徒の職業観・勤労観とコンピテンシーを育成しているという傾向が示された。今後、改めて教科の存在意義を熟考し、その上で市民育成の視点から「労働・職業」との接合を試みることが、日本のキャリア教育に求められる。
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