国語科の授業において子どもが文学的な文章についての理解を協働的に深めていく過程の詳細についてフィールドワークに基づく教室談話分析を通して明らかにした。本研究では,まず,物語論(narratology)や認知心理学,文学教育における先行研究についてレビューを行った。研究知見と残された課題について整理し,文学的文章について読者が理解を深める過程についてのモデル構築を試みた。その作業と並行して,複数の学校において継続的な授業観察をおこない,授業事例データを蓄積した。文学的な文章の読みの深まりを捉えるその理論的な枠組みに依拠して授業事例のトランスクライブを対象に具体的な分析を行った。実際の事例に即しながら,子どもたちが互いに足場かけを行いながら文学的な文章の虚構世界についての理解を深めていく過程を記述・説明した。国語科の授業において,学習者が文学的文章を構成する物語言説に内包される意識の複数性を手がかりとしながら,存在や現象についての多面的な認識を社会的に構成していることを明らかとした。 文学的な文章の理解過程において読者は虚構世界における存在や現象についてイメージの精緻化を試みる。国語科の授業実践において,文学的な文章の虚構世界についてのイメージの精緻化を子どもに促すために,登場人物や語り手が虚構世界の存在や現象をどのように捉えているのか,その登場人物が虚構世界の時空にどのように位置付いているのかという2種類の問いから構成される課題を設定することの重要性が示唆された。
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