研究課題/領域番号 |
26780500
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研究機関 | 鳴門教育大学 |
研究代表者 |
小山 英恵 鳴門教育大学, 大学院学校教育研究科, 准教授 (20713431)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音楽科 / 音楽的な感性に基づく思考・判断・表現 / K.H.エーレンフォルト / C.リヒター / 生 / 仲介 / 音楽の教授学的解釈 / 鑑賞 |
研究実績の概要 |
まず、昨年度に引き続きドイツの音楽教育学者エーレンフォルトによる音楽と聴き手の対話を促す仲介の理論に関する研究を進めた。エーレンフォルトは、音楽を聴くことに子どもの生が関与することを求める教育においては、目標に向けた教授・学習過程やその到達度測定を内包する授業とは異なる方法が必要であるとする。その方法が仲介である。仲介は、個々の音楽の了解への道を提供するものであり、子ども一人ひとりの自己形成と密接に関わるものである。その実践的なポイントは、教師(仲介者)の立ち位置の転換(専門性をもつ教師から一人の聴き手へ)、音の向こうにあるメッセージの発見への方向付け、対話を促す問いの提示等にある。 次に、エーレンフォルトの理論をもとに独自の「音楽の教授学的解釈」の理論を展開したドイツの音楽教育学者リヒターの主張を取り上げ、両者の主張の異同を検討した。両者は、音楽と人間との対話である音楽の了解を目指し、音楽と人間を結ぶ「生活世界」を重視し、自己理解や世界理解を音楽了解の意味として求める。しかしリヒターは、音楽自体の扱いをおろそかにすることで「生活世界」がかえって浅薄に扱われることを懸念し、また音楽のつくりを音楽の「体現」として捉えたうえで、音楽のつくり(形成)に焦点をあてるアプローチ(音楽の身体的描写による「体現」や、音楽における「普遍的な形成原則」への着目)を提唱する。それは、音楽とそれを聴く子どもを、子どもの経験から一元的に捉え、子どもの経験と価値判断の成長という自己形成を重視するエーレンフォルトの主張と決定的に異なる。 音楽と子どもの感性の関わりに迫る以上の研究は、音楽的な感性に基づく思考・判断・表現の力を育成する授業の実践的なヒントおよび論点を示すものである。その他、これらの文献研究の成果を生かして昨年度から進めている鑑賞領域の授業についてのアクション・リサーチの成果をまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
勤務大学において予定外の業務が多く入ったため、昨年度に予定していた学会への参加、フィールドワーク等については変更が相次いだが、文献研究および調査研究やアクション・リサーチのまとめ等は進んでおり、おおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでのドイツの音楽教育における理論的研究、その成果に基づく実践的研究を継続するとともに、初年度に行った音楽専門家への調査研究を含めた本研究の全体的な成果を最終報告書にまとめる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
勤務大学において予定外の業務が入ったため、当初予定していた学会への参加、フィールドワーク等が難しくなり、計上していた学会への参加費や旅費、フィールドワークに関わる旅費、消耗品、書籍等の購入のための費用の使用が先送りとなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
学会や研究会への参加費および旅費、研究テーマに関連する音楽教育、教育学、哲学、心理学等の文献購入、報告書の印刷費等に使用する予定である。
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