平成27年5月20日から22日までパリ市20区において小学校2校を訪問し、25日から29日まではロンドン市イーストエンド地区で移民系児童の生活環境を調査した。 パリ市20区における調査期間は計4日間であり、休み時間中には児童および教師へのインタビューも行った。調査の対象は、ベルリン市での調査と同様、教科書、教師の意識(授業の狙い、注意している点など)、子どもたちの実態(家庭関係、階層、宗教、興味関心、授業についての感想など)などであった。また、ロンドン市では、最新の各種研究において取り上げられている地域の実態を視察し、文献調査から得られた知見を補強した。 その他、平成26年度に行ったベルリン市の小学校訪問調査の成果を分析し、各学校における道徳教育の特徴と課題を明らかにした。 11月15日には岡山大学で開催された中国四国教育学会において「A Study on the German Citizenship Education」との題の下、研究成果の報告を行った。 これらの調査から明らかになったのは、独仏英の学校を取り巻く社会の多民族化・多文化化の進展度と、それぞれの児童が暮らす生活の文脈、さらに保護者の生活の在り方などを考慮に入れ、保護者をも巻き込みながら、児童の立場に立ち社会への包摂を目指して進められる市民性教育の在り方である。これらの国々おける市民性教育は、日本における道徳教育と同様に読み物資料を用いることもあるが、読み物資料から得られる知識だけでなく、ロールプレイ等を通した具体的行動の練習や具体的場面の経験、さらに他者との協力の大切さを感じさせるためのグループワークなど、多種多様な形態で行われている。こうした多民族化・多文化化の下での市民性教育は、現在、グローバル化の影響下におかれている日本における道徳教育の今後の授業形態の可能性を示唆するものと考えられる。
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