音楽科教育では、日本の伝統的な歌唱の学習を通して、日本の伝統的な声、ことば、身体性を学ぶことが重視されてきている。本研究は、謡の学習プログラムに基づいた授業を継続的に実践することで、児童の声が響きのあるものに変わる過程と、謡を通した地域文化への愛着度の変化を検証することを目的とする。 検証授業は、宮城県大崎市立大貫小学校の4年生を対象に、平成26年7月、11月、平成27年5月に計3回(計6時間)を行った。さらに、第1次の授業と第2次の授業の間の7月から11月の4か月間、朝の会を利用して継続的な謡の稽古を行った。この授業実践は、平成27年度の4年生にも同様に行い、以下のことを検証した。 第1に、検証授業の際、小学校4年生男子2名、女子2名を抽出し、ワイヤレスマイクをつけて、レシーバーで受けた音声について、第1次、第2次、第3次の検証授業の歌声を教材の同じ箇所で比較し、児童の声の変化を検証した。収録した音声の音響分析には、スペクトル分析とソナグラムを用いた。その結果、練習を重ねるごとに、息がもれる声の指標である非整数次倍音が弱くなり、整数次倍音が強くなっていった。さらに、3~4kHz付近にみられる、響きのある声が増えた。これらのことから、音声分析によって、学習を重ねるごとに、児童の声が、息がもれてただ音程を合わせようとする声から、腹の底から出る響きのある声へ変化していったことが明らかになった。 第2に、検証授業に参加した小学校4年生(平成26年度は21名、平成27年度は25名)に、第1次、第2次、第3次の授業後にアンケート調査を行った。具体的には、自尊感情尺度(東京都版、質問項目22項目)、学校適応感尺度(16項目)、地域愛着度尺度(10項目)を用いて分析した。その結果、学習を重ねるごとに、自尊感情が高まり、地域文化に対する愛着度も高まっていったことが明らかになった。
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