研究課題/領域番号 |
26780507
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
武田 信吾 鳥取大学, 地域学部, 講師 (10600926)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | こども / 集団 / 造形活動 / 技能 / 伝搬過程 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
本研究は,幼児~児童期のこどもを対象として,集団的な造形活動のなかでの技能の伝搬過程を明らかにするものである。活動中のこどもの様子について横断的かつ縦断的な記録を詳細に行い,技能が伝搬する状況について具体的に把握しようとする。 平成26年度に実施した研究では,抽出児のみを詳細に記録していたため,活動に参加している全てのこどもの行為が,全体のなかでいかに相互作用を起こしているのかを捉えることまでできなかった。そのため,平成27年度に行った研究では,次の2つの対応をとった。第1に,鳥取大学地域学部附属こども発達・学習センターの協力のもと,同センター内行動観察室を造形ワークショップ会場として使用した。当該施設には,室内の様子を多方向から動画として記録する設備が整っており,活動に参加した全てのこども達の様子をより詳細に捉えることが可能となった。第2に,保護者の同意のもとで,活動に参加する全てのこどもの頭部にワイアレス小型カメラをつけてもらい,活動中に何を見ているのかを確認できるようにした。 鳥取大学附属幼稚園の協力のもと,同年齢の園児4人が1グループとなって行う造形活動を実施した(年少児グループ3組,年中児グループ2組,年長児グループ2組)。その結果,活動の方向性が未確定や不安定な状況で,他者観察が行われたことで後の活動に影響を与えていく過程について,グループ全体の相互作用として捉えることができた。また,行為の観察だけでなく,言葉のやり取りや制作物からも活動のヒントを得ている状況も併せて確認することができた。年長児グループでは,年少児や年中児で構成されたグループでは見られなかった共同的な活動や見立て活動が自然発生的に現れており,こうした活動内容の発達段階的な特徴が相互作用の在り方に大きく関わっていることも分かってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄に示した通り,頭部装着のビデオカメラを使用する必要性が新たに加わったため,研究実施計画を一部変更して小型のポータブルビデオカメラ及び専用ヘアバンド(幼児の頭囲にも調整可能)を購入した。人間の眼球の構造上,他者に意識的に視線を向けている場合,当該対象は頭部装着ビデオカメラの動画記録にほぼ映り込むと判断できる。同機器の使用により,造形活動に参加している全てのこどもの視線について,いつ,誰に対して向けられているものなのか,一層明確に把握することが可能となった。 なお,研究成果を報告するために行う所属学会での発表に関しては,大学美術教育学会第54回大会(横浜国立大学,平成27年9月20・21日)において発表を行った。加えて,乳幼児を対象とした調査の結果について,その発達的な特徴に関して保育学の見地から検討を行う必要性があるため,事業期間を延長する形で,日本保育学会第69回大会(東京学芸大学,平成28年5月8日)において発表を行うこととした。左記の取り組みによる他研究者との意見交換を踏まえながら,研究成果をまとめた論文を作成し,所属学会ジャーナルへ投稿する予定である。 以上,研究の実施状況に関して,研究実施計画に記載した内容から若干変更させた部分はあるものの,研究目的の遂行において必要に応じて行ったものであり,その成果は「研究実績の概要」欄に示した通りである。概して,本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現在まで行ってきた研究により,活動の方向性が未確定な状況などで他者観察が頻発し,活動構成メンバー内で相互に影響を与え合いながら造形的技能が伝搬していく過程を明らかにした。一方で,視線を向けていた部位を特定できなかったために,関心の拠り所や他者との微細な関わり方の変化が捉えきれず,それらが技能伝搬の過程に与えた影響について検討課題が残された。 モノとの直接的な関わり合いが他者と並行的に,あるいは共同的に行われる集団的な造形活動においては,特に他者観察の在り様は学びの質を方向付ける重要な要素であると考えられる。今後の研究では,注視ポイントを特定することが可能となる視線分析装置を新たに導入しながら,こどもの造形活動における2者間の他者観察の在り様を微視的に描き出すことで,他者からの造形行為に関する情報の取得と活用の過程について明らかにする予定である。また,活動を共にする相手との発達段階的な差異が,他者観察の在り様に影響を与えていくことも予想されるので,同年齢のこども同士によるケースと異年齢のこども同士によるケースの双方について調べていく。 以上,本研究における今後の新たな展開については,すでに交付内定を受けている平成28年度申請分の科研費を使用しながら推進する見通しである。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は,所属学会において本研究の進捗状況を発表し,他研究者とのディスカッションを通じて,分析結果の検証を適宜行ってきた。現在,乳幼児を対象とした調査の結果について,その発達的な特徴に関して保育学の見地から検討を行う必要性があり,平成28年5月7・8日に開催される目本保育学会第69回大会で研究発表を行う予定である。大会参加に伴う交通費等の支出分をまかなうため,補助事業期聞の延長を希望した。申請は,平成28年3月22日付で日本学術振興会より承認を受けている。
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次年度使用額の使用計画 |
上記の通り,平成28年5月7・8日に開催される目本保育学会第69回大会で研究発表を行うために,大会参加に伴う交通費等の支出分として使用する。
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