2016年5月8日、日本保育学会第69回大会において、2015年度に実施した研究成果を発表し、他研究者とのディスカッションを通じて、特に幼児を対象とした調査の結果について保育学の見地からの検討を行った(学会による発表可否の通知が2015年度内であったため、科研費助成事業実績報告書としては、2015年度のものの「研究発表」欄に当該業績を記載している)。左記の取り組みで得られた知見を踏まえながら、当該研究内容を論文としてまとめ、自身が所属する学会誌(査読付)に投稿した。その概要は以下の通りである。 2015年度に行った調査では、幼児の集団的な造形活動について、その相互作用の全体像を、視線分析を活用しながら明らかにしようとした。分析データを得るために行った造形活動では、活動の構成メンバー全員の頭部にビデオカメラを装着し、各幼児の視界に広がる世界を個別的に捉えられるようにした。各動画記録は、誰が、いつ、どれだけの時間を伴って映っているのか、行動コーディングシステムを用いて数量化し、それぞれ幼児ごとに、他者に視線を向け続けている可能性が高い場面を特定していった。その結果、当該場面のなかで展開される造形行為の伝搬過程を捉える一方で、幼児が他者の制作物や発話からもアイデアを得ていることも明確化できた。また、応答としての造形行為の模倣や、協同関係にある者の造形行為の確認に伴う視線のやり取りも顕在化し、各幼児の他者への関わり方の特性が、他者に視線を向ける行動の差異として現れていく様相が確認できた。 上記の成果は、こどもの集団的な造形活動における相互作用の意味について、行為及びその意図の認識と社会的関係性という新たな観点を得ること、モノを介在したこども同士の学び合いに対する新たな捉え方を提起すること、こどもの成長・発達について理解する視座を拡充することなどにつながると考える。
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