ワーキングメモリ(Working Memory: WM)の訓練は一般的効果があり,訓練していない課題の成績を改善するという報告がある一方,否定的な見解を示す総評が存在する。先行研究では,視空間WM訓練により記憶成績は改善したが一般的効果はなかった。しかし,訓練していない低次の視覚注意(Visual Attention: VA)の改善効果は見られた。こうしたVAのスパンとWMは,発達性ディスレクシアと関係しており,訓練の効果を検討することは支援に繋がる可能性を持っている。本研究では,WMとVAスパン訓練の効果について検討を行い,どちらがより有用であるか検討した。 WM群10名,VAスパン群9名を対象とし,訓練前後の行動課題と事象関連電位(ERP)課題を検討した。行動課題として記憶(数唱,視空間WM,リーディングスパンテスト)と,注意(VAスパン部分報告法・全体報告法)課題を,ERP課題として視覚3刺激オドボール課題を実施した。WM群には,ランダムな配置で9つの丸を呈示し,そのうちの1つである赤い丸の場所と順番を記憶して回答を求める訓練を実施した。VAスパン群には,瞬間呈示された無意味な図形を把握し,同じものが何個あったか回答させる訓練を実施した。どちらも成績に合わせて難易度を調整し,25日の訓練(1日10分程度)を実施した。 訓練前後の行動課題では,両訓練に一般的効果はなかった。視空間WM訓練によって視空間WMの成績は向上した一方,VAスパン訓練によってVAスパンは改善しなかった。訓練前後のERP課題では,標的・新奇刺激に対するN100およびP300振幅に訓練効果は見られなかった。一方,標的P200振幅はWM群で振幅が増大した。この結果は先行研究と一致しており,記憶における初期選択的注意が改善した可能性が示唆された。VAスパンよりWM訓練の方が効果的である可能性が示唆された。
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