本年度は、主にASD児における運動スキル障害の発生メカニズムについての検討を行った。ASD児における手指運動を取り上げ、国際的な運動アセスメントであるMABC2の「手先の器用さ」領域に含まれる課題の1つを遂行している際の様子を、ハイスピードカメラを用いて撮影した。手指運動を検討対象とした理由は、この運動種で低成績を示すASD児が多いことが、昨年度までの調査で明らかになっているからである。分析の結果、ASD児の中でも特に手指運動機能が低い児は、手指運動機能が暦年齢相応の水準にある児に比べ、課題を遂行する際に必要な運動の各要素が統合されておらず、運動要素間の移行がスムーズでないことが明らかとなり、こうした特徴に起因して運動課題の低成績が生じている可能性が示唆された。近年、ASD児における社会性障害を行動の自動化の障害として捉えようとする立場があり、これは今回明らかとなったASD児における手指運動の特徴とも関連する可能性がある。この点についての検討が、今後の課題となる。こうした検討に加え、本年度は発達性協調運動障害についての国際会議に参加し、昨年度に検討したASD児におけるMABC2の年齢縦断的変化についての発表を行った。
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