注意欠陥多動性障害(ADHD)を持つ児童を対象に、運動機能の特性を同年代の定型発達児(TD)と比較検討した。対象は、7歳から12歳までの通常学級に通う児童であり、整形外科的な疾患を有しないことを研究参加の条件とした。なお、ADHDは女児と比べ男児に多く認められることから解析対象は男児のみとした。解析には、ADHD男児19名(平均年齢:9.7歳)、TD児21名(平均年齢:10.7歳)の測定データを使用した。ADHDのサブタイプは不注意型8名、混合型11名であった。 結果は、ADHD児ではTD児と比べ、統計学的に有意に低値であり、特に巧緻動作やボールスキルで有意に低値であった。また歩行を測定した結果、ADHD児ではTD児と比べ、1分間に出す歩数(ケイデンス)が統計学的に有意に高値であった。また歩行を側面から運動学的に解析をした結果、ADHD児ではTD児と比べ、骨盤の前傾角度及び股関節の屈曲角度が統計学的に有意に高値であり、さらに付随して股関節の伸展角度が統計学的に有意に低値であった。多変量解析により、歩行中の骨盤の角度ADHDの重症度と知能指数が有意に関係していることを明らかにした。 今回の我々の研究では、ADHD児では、TD児と比べ、運動機能が低く、特にペンやボールを使用した動作で特徴が現れやすい可能性を示した。また自動的な動作である歩行において、ADHD児では歩数が多く、骨盤が前方に倒れていることから、無意識に調整されている姿勢や筋緊張がTD児とは異なる可能性が示唆された。これらの結果は、評価や指導方法の確立されていない学校やスポーツ場面において、ADHD児の運動機能の評価や運動指導の一助となる可能性がある。
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