本研究の目的は、自閉症スペクトラム障害児を中心とした発達障がい児の感覚処理に関連する行動上の問題(例:感覚刺激に対する過剰な反応や過小な反応、協調運動、社会参加)を、早期から継続して支援するための質問紙(Sensory processing measure; 以下、SPM)を国内で標準化し、妥当性・信頼性を検証することである。SPMは、国際的に広く使用されている質問紙であり、家庭・学校といった異なる環境における子どもの様子を包括的に捉えることが可能である。 日本版SPMは、複数の専門家ならびに保護者の協力を経て妥当性を検証し、逆翻訳の手続きを経て作成した。日本版SPMを用いた国際比較では、原版の標準化サンプルに比べ、日本の定型発達児は感覚処理に関連する行動特性を示す傾向が低いことが明らかとなった。平成28年度以降には、定型発達児のデータに加え、発達障がい児のデータ収集を開始した。発達障がい児群は、定型発達児群よりもSPMの9つ全てのスケール(「社会参加」「視覚」「聴覚」「触覚」「嗅覚・味覚」「身体への気づき」「バランス」「プランニング・アイディア」「総感覚システム」)で有意に高い得点を示し、感覚処理に関連する行動の問題を示す頻度が日常的に高いことが確認された。さらに、定型発達児郡に比べ発達障がい児群では、各スケールの得点が高いものから低いものまで広範囲に分布しており、過視化されるプロファイルから、個別性の高い結果を得ることが可能であった。 また、家庭用と学校用の得点比較を行ったところ、定型発達児群では「味覚・嗅覚」「身体への気づき」を除く7つのスケールで有意な差が認められ、発達障がい児群では、「社会参加」、「視覚」、「触覚」において有意な差が示された。子どもの行動は異なる環境では変化する可能性があり、SPMの様な環境を考慮した質問紙は有用であることが確認された。
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