H28年度は小学生(6年生)32名を対象に,nback課題および数群比較課題を実施した。実施に際しては,対象児の保護者から書面にて同意書を得た。 n-back課題は数字を時系列に沿って視覚提示し,n個前に提示された数字を回答する課題である。本研究では,第一試行から連続して何試行正答できたかにより視覚性ワーキングメモリの容量を評価した。 数群比較課題はディスプレイの左右に数字群が円内に提示され,左右の円内に入っている数字群の異動を回答する課題である。数群は2桁から8桁から構成された。ディスプレイのどこを注視しているかを視線追跡装置を用いて量的に測定し,左右の数字群を何回見比べて,異同を判断したかを評価した。n-back課題のパフォーマンスが低い者は,視覚性ワーキングメモリの容量が少ないと推察されるため,数群比較課題を記憶・比較する際に,メモリ容量の不足を補うために見比べる回数を増やすような代替行動を示すかどうかに注目して分析を行った。 まず,n-back課題の連続正答数の中央値で対象者を上位群(7-10点)と下位群(0-6点)の2群に分けて,さらに,視線追跡のサンプリングが60%以上だったを分析と対象とし,見比べ回数に差があるかを検討したところ,2桁から8桁条件のいずれにおいても差は認められなかった。また,回答に要する時間も差が認められなかった。 一方,予備調査の分析おいて差が見られた性差間の反応時間(回答時間)については,5桁の同じ数群を比較する条件において女児の反応時間が早かった。さらに,見比べ回数においても,5桁の同じ数群を比較する条件では,女児は男児に比べて少ない見比べ回数で回答した。 これらの結果から,視覚性ワーキングメモリの容量を補うような代替的な視線移動は明確には観察されなかった。ただし,条件によっては,性別によって視線移動方略が異なることが示唆された。
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