本研究は、視覚障害児の支援システムが充実したイギリスに焦点をあて、そのシステムの実現条件について、歴史的検討と実態調査を用いて明らかにした。結果、次の2点が明らかとなった。一つは、視覚障害児の特有なニーズに的確に対応できる専門家の存在と、その派遣方法である。イギリスでは、152 あるすべての各地方当局に障害児のための支援センターが設置され、視覚障害専門資格を有する専門教員を通常学校に派遣するシステムが構築されていた。また、視覚障害を「低発生頻度障害(low incidence special educational need and disability)」として位置づけ、他の障害とは別枠で予算措置が実施されていた。二つ目は、通常学校における「インクルーシブ」な教育環境整備である。具体的には視覚障害を含め、多種多様なニーズを有する児童生徒を念頭にいれた集団編制や教授法が採用されていた。また、管理職、担任、ティーチングアシスタントが障害についてある一定の知識を有していた。この背景には、1960年代半ば以降から1970年代初頭にかけて都市部の小・中学校では、障害だけでなく貧困等の要因によって学習上に困難を抱える子どもの存在が顕著となっており、効果的な教育方法が検討されていたことが挙げられた。また、早くも1970年にはイギリス北西部において専門教員による巡回指導システムが構築されると、通常学校ではより多くのニーズ児を受け入れる姿勢が見られるようになった。現在のシステムは、障害児のみならず移民や貧困層の児童生徒など社会的要因からニーズを有する児童生徒に対し、より良い教育を提供するための手段として、50年以上もの歳月をかけて構成されたシステムであることがわかった。なお、3年間で得られた成果は、学術論文8編(うち査読付4本)、その他学会発表等(5件)にて発表済みである。
|