研究課題
本研究の目的は、①縦断的検討により、日本語のかなと漢字の読み書き発達における認知的要因および非認知的要因の役割を明らかにすること。②読み書き発達のプロセスの国際比較により、異なる言語において適用できる普遍的かつ包括的な読み書き発達のモデルを構築することである。平成27年度は、本研究における縦断的検討の3回目の調査を5月から6月の期間に、4回目の調査を11月から12月の期間に、国内各地の調査者による協力を得て実施した。調査参加者は、平成26年度から本研究に参加しており、本年度の参加継続の同意が得られた2年生の児童135名であった。特に本研究の①の目的に関連して、現在までに得られたデータをもとに、就学後の読み書き能力を予測する就学当初の要因の分析を行った。その結果、かなと漢字の予測因子は大きく異なることが明らかとなった。具体的には、かなの読み書きの発達においては音韻意識(言語音の認識・操作)と正書法知識(正しい書き方に関する知識)が重要であり、かなの読みの速さの発達においては呼称速度(ものの名前を言う速さ)も重要であることが明らかとなった。一方、漢字の読みの発達においては形態素意識(語の成り立ちに関する認識・操作)が重要であり、漢字の書きの発達においては言語性短期記憶(言語音の短期的な保持)も重要であることが明らかとなった。これらの予測因子のパターンは、かなの場合は文字と音の対応関係の規則性が高いアルファベット言語(例えばギリシア語やフィンランド語)において報告されているパターンに類似し、対照的に漢字の場合は中国語において報告されているパターンに類似した。本研究のこれまでの結果は、日本語の読み書きを学ぶ子どもたちが、かなと漢字の読み書きの学習においてそれぞれ異なる認知機能を利用していることを示した。
2: おおむね順調に進展している
縦断的検討の2年目となる平成27年度は、当初の計画どおりに2回の本調査を実施することができ、前年度分とあわせて計4回の調査を終えることができた。調査参加者の数についても、前年度の1回目の調査では申請時の目標に達していなかったが、その後の参加継続を促すことを意図した対応策の影響もあり、4回目には目標を超える135名の児童から協力を得ることができた。
調査開始から3年目となる平成28年度は、参加者である児童らが3年生になる年度にあたる。本研究では一部の地区において放課後の時間を利用して調査を行っていること、また、年度をまたいでの継続となることもあり、参加者が中学年となる5回目の調査では、これまでと比べて辞退希望者が多くなると予想される。今後の参加者数の維持のための方策として、児童らの関心をひくことができるように調査内容を工夫すると同時に、保護者に対して調査の経過に関する具体的なフィードバックを行い、参加への動機づけを保つように図ることを予定している。
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Journal of Special Education Research
巻: 3 ページ: 45-53
10.6033/specialeducation.3.45