研究課題/領域番号 |
26790001
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
湯村 尚史 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 准教授 (80452374)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カーボンナノチューブ / 密度汎関数法 / ナノ空間 / パイ共役系分子 / フロンティア軌道 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では、カーボンナノチューブ内部空間に存在するパイ共役系オリゴマー集合体の配向制御に関する知見を得るため、分散力を考慮した大規模密度汎関数法計算を行った。本研究では、パイ共役系オリゴマーとしてチオフェンオリゴマーとフランオリゴマーを考え、チューブホスト内部でのゲストの配向を比較した。 密度汎関数法計算の結果、チューブ直径に依存して内部パイ共役系分子ゲストの配向は多様であることが分かった。さらにこの配向は、パイ共役系オリゴマーの種類にも依存することが明らかとなった。 チューブ内部のパイ共役系オリゴマーの配向を決定する最も重要な要因としてホストーゲスト相互作用が挙げられる。太いチューブにパイ共役系オリゴマーが内包される場合、ホストーゲスト相互作用由来の安定化エネルギーを最大化するようにオリゴマーが配向することが分かった。一方、細いチューブに多数のパイ共役系オリゴマーの内包される場合、ホストーゲスト相互作用とゲストーゲスト相互作用、つまり鎖間相互作用のバランスによりオリゴマーの配向が決定されることが明らかとなった。この鎖間相互作用はパイ共役系オリゴマーの種類で異なり、その結果としチューブ内部の配向の差異を引き起こすことも見出した。チューブ内部のパイ共役系オリゴマーの配向は鎖間相互作用の強さを支配するため、オリゴマー集合体のフロンティア軌道のエネルギー準位を決定する上での重要なファクターになる。その結果、ホストチューブの直径やゲストオリゴマーの種類により、オリゴマー集合体の電子状態をチューニング可能なことが大規模密度汎関数法により明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では当初の研究計画通り、カーボンナノチューブ内部に存在するパイ共役系分子集合体の配向がゲスト分子の種類(チオフェンオリゴマーとフランオリゴマー)にどのように依存するかを議論することができた。実際、チューブ内部のパイ共役系ゲスト集合体の配向は、ゲストーゲスト相互作用、つまり鎖間相互作用とホストーゲスト相互作用のバランスで決まることが分かった。この二つの相互作用の大きさはホストチューブの直径に依存する。また、鎖間相互作用の大きさは、パイ共役系分子に含まれるヘテロ原子の違いにより異なり、その結果としてパイ共役系分子の配向の依存性を引き起こすことが分かった。さらに、内包されるパイ共役系分子数もこの二つの相互作用のバランスに影響を与えることも明らかとなった。以上の知見により、パイ共役系ゲストの配向は、チューブホストの直径、パイ共役系分子の種類、およびゲスト分子の数に依存することが明らかとなった。 また、チューブ内部のパイ共役系分子集合体の配向に依存してフロンティア軌道の分裂幅が変調することも分かった。このフロンティア軌道の分裂幅はゲスト集合体の電子状態を決定づける。このため、ゲスト集合体の電子状態はチューブホストの直径、パイ共役系ゲストの種類、およびゲスト分子の数により調整できるが本年度の研究により示唆された。 以上の結果により、本年度の研究は順調に進展していることが明らかである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では昨年度の研究成果を踏まえ、ナノチューブ内部に存在するパイ共役系分子集合体がどのように可視光を吸収するかについての知見を得る。まず単一のパイ共役系分子の時間依存密度汎関数法計算を行い、遷移強度および励起波長を算出する。この時、基底状態および励起状態の対称性を議論し、光と相互作用可能な軌道の対称性の組み合わせを見出す。次に、精密な計算方法であるクラスター展開法を行い励起状態や垂直励起エネルギーを求める。その後、パイ共役系分子集合体についても同様の解析を行い、その配向が光吸収に関与する軌道のエネルギー準位と励起エネルギーに及ぼす影響を調べる。 その後、パイ共役系分子集合体に可視光照射することで生じる励起電子が、どのようにナノチューブに移動するかを議論する。ここで, マーカスの電子移動理論に注目する。実際には、パイ共役系分子の可視光照射により電子が占有された軌道と、ナノチューブの非占有軌道との相互作用の大きさを算出し、ゲストとホストとの間の電子移動速度を見積もる. この時、電子移動速度を最大にするための条件 (特に, 軌道ペアーの対称性に関する規則) を見出す
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