研究実績の概要 |
昨年度に引き続き今年度も, パイ共役系オリゴマーを内包したカーボンナノチューブにおける電子状態制御に関する知見を得るため分散力を考慮した密度汎関数法計算を行った。パイ共役系オリゴマーとして, オリゴチオフェンと同様に炭素五員環を有するオリゴフランを考えた. 密度汎関数法計算の結果、内部パイ共役系オリゴマーの配向はオリゴマーの種類、鎖数、さらにチューブ直径に依存することが分かった。特に, オリゴマーの種類によりオリゴマーの積層様式が異なることも明らかになった。チューブ内部のオリゴマーの配向に依存して, オリゴマー間に働く鎖間相互作用の大きさが異なった。その結果、オリゴマー集合体のフロンティア軌道の特性、とくにエネルギー準位を変調させることも確認できた。更に, ナノチューブ内部でのジメチルアミノニトロスチルベンについても理論的な解析を行った。ジメチルアミノニトロスチルベンは分子内に分極を有するため, 分極を持たないチオフェンオリゴマーとは異なる挙動を有することが分かった. 実際, 反発的なクーロン相互作用のため, ナノチューブ内部のジメチルアミノニトロスチルベンは一列に配向したほうがエネルギー的に安定であることが分かった。この配列は, ジメチルアミノニトロスチルベンの二次の非線形光学特性に影響を与えることが分かった. 従って、ナノチューブの直径を変化させることで内部ジメチルアミノニトロスチルベン集合体の電子特性が制御可能であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成 26および 27 年度の研究で得られた知見を基に, パイ共役系分子内包カーボンナノチューブを用いた可視光応答スイッチの設計指針を計算化学の立場から得る (図3(III)). まず, 幅広い波長領域の可視光を吸収するパイ共役系分子集合体を得るため, オリゴマーの種類, 長さおよび本数を変化させる. さらに, 異なる直径を有するチューブを用いて内部パイ共役系分子集合体の配向および鎖間相互作用を調整し, フロンティア軌道のエネルギーを変化させる. 上述の構造パラメータを変化させることで,パイ共役系分子集合体の電子状態およびその可視光応答性を調整する. 次に, 軌道相互作用の観点から, パイ共役分子集合体の励起状態からナノチューブへの電子移動のコントロールするために必要な知見を得る. これを行うために, 電子移動に関与する軌道ペアーの対称性における規則性に注目する. この規則性に基づき, あるパイ共役系分子との間で電子移動のしやすいナノチューブの螺旋度を探索する. 以上の知見を踏まえ, 可視光応答スイッチとして駆動するパイ共役系ゲスト分子の構造パラメータとナノチューブの螺旋度を選択する.
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