研究実績の概要 |
カーボンナノチューブの内部空間には分子 (ゲスト) を取り込むことが可能である. その一例として, 分極を有するp,p’-dimethylaminonitrostilbene (DANS) を取り込んだという実験報告が挙げられる. この報告では, DANS分子を一列に配列させることにより, 分子特有の非線形光学特性の増強が示唆されている. 以前の我々の密度汎関数法 (DFT) 計算により, ホストチューブ直径に依存してゲスト分子の配向が異なることを見出している. 実際, 1 ナノメートル以下の直径を有するチューブに内包される場合, 直線型の配向が選択的に生成されるものの, 1 ナノメートル以上の直径を有するチューブの場合, 積層型や直線型の配向が許された. チューブ内部のゲスト集合体はその非線形光学特性, つまり超分極率に大きな影響を及ぼすことが予想される. これを確かめるため, 内包分子集合体の超分極率を算出した. 理論計算の結果, ゲスト集合体の配向に依存して超分極率が変化することがわかった. 実際, パラレル配向の場合, 有為な超分極率を有するものの, アンチパラレル配向の超分極率はほぼ消失した. さらに, パラレル配向において, 直線型の超分極率は積層型のそれよりも大きいことがわかった. 特に, 直線型の配向では, 同数の分子が遠方に存在する場合よりも顕著な超分極率を有することも明らかとなった. 違いは, 双極子モーメントの大きさに依存する. 以上の結果は, チューブ内部でDANS分子の配向が非線形光学特性に影響を与えることを示唆している.
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