研究課題/領域番号 |
26790003
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
与那嶺 雄介 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (50722716)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 不斉誘起 / Langmuir膜 / 軸不斉 / 気水界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、界面を用いて、マクロな力学刺激と1分子の構造変化の関係を定量化し、その知見を用いて、力学刺激による単分子のキラリティー制御を行うことを目的としている。具体的には、気-液界面に、1,1’-ビ-2-ナフトール(BINOL)誘導体の単分子膜(Langmuir 膜)を形成させ、単分子膜の圧縮による、分子内の二面角の変化を定式化する。次に、キラリティーを持たないビナフチル誘導体を用いて、わずかな量のキラル源を加え、圧縮により各分子の軸不斉を誘起し、キラル情報を増幅させる。このように、マクロとナノを結びつける研究に焦点を当てることで、分子マシンの動作原理などの、ナノサイエンスの基礎原理を導く。 平成26年度前期には、必要な分子の合成を行った。はじめに、単分子膜を作製するのに必要な、軸不斉を持つ軍曹分子(BINOL 誘導体)を合成した。親水性部位と疎水性部位のバランスの調整の検討が必要であったが、安定な固体膜を形成する構造の分子が得られた。一方、ラセミ体の兵士分子に関しては、BINOL の2つの水酸基を脱水し、エーテル構造で閉じることで、閉環ビナフチル構造を形成させる方法で分子の合成を行った。この反応に関しては、ゼオライトを触媒に用いて定量的に進行させた報告があったので、当初はそれを参考に合成を試みたが、うまく反応が進行しなかった。そのため、酸性条件で強熱する方法に変更して、合成を行った。 平成26年度後期には、単分子膜のCD 測定ができるように、条件を検討した。具体的には軸不斉を持つ分子の単分子膜を石英基板に写し取り、スペクトルの強度を確認した。その結果、コットン効果のシグナルが充分得られる事が分かり、1分子の構造変化を追跡する実験手法が確立できた。また、実験と並行して、広く使用されている計算ソフト「Gaussian」を用いて、理論計算による解析の準備も始めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実験予定では、初年度に、(1)必要分子の合成とその単分子膜を得ること、(2)π-A 曲線から分子構 造の変化に使われたエネルギーを見積もること、(3)単分子膜のCD 測定、(4)計算科学による二面角とCD スペクトルの関係の理解、の達成を計画していた。「研究実績の概要」で述べたように、(1)、(3)、(4)に関しては、予定通り順調に進展した。一方、ラセミ体の分子の合成に関して、当初の計画よりも時間が掛かったため、平成26年度中に(2)の実験に関する検討が不十分となった。具体的には、不斉を持つ分子の単分子膜を用いて、圧力と分子の占有面積のプロット(π-A 曲線)から、BINOL 構造が閉じる力を見積もる実験である。必要な化合物・測定手法は準備できているため、平成27年度の初めに、その実験を行う予定とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究概要として、圧力によるBINOL構造の閉環に使われたエネルギーを見積もったり、分子シミュレーションによる計算を用いたりして、より定量的に理解を深める。さらに、本研究のメインの目的である、界面でのキラル誘起・増幅を、様々な力学刺激条件を用いて行う。 平成27年度前期にはまず、不斉を持つ分子の単分子膜を用いて、圧力と分子の占有面積のプロット(π-A 曲線)から、BINOL 構造が閉じる際に用いられた力を見積もる。また、実験と並行して、理論計算による解析も始める。界面における分子シミュレーションの専門家と協力して、軍曹分子内の二面角が閉じる過程で、どの程度エネルギー状態が高くなるか計算し、CD 測定で得られた強度変化・波長シフトとの関係の定式化を目指す。 平成27年度後期には、ラセミ体の兵士分子に対し、0.1-10 mol %の軍曹分子を添加し、単分子膜を作製する。圧力が高くなるにつれ、CD スペクトルの誘起コットン効果がどのように増大してゆくか、観測する。定量的な実験で得られた関係式を用いて、CD スペクトルの強度から、加えた圧力に対してどの程度の兵士分子がキラル誘起されたのか評価する。もしキラル誘起が充分に行われなかった場合は、圧縮と弛緩を動的に繰り返すことで、キラル誘起を徐々に増大させる事が可能か、試みる。さらに、単分子膜への圧力を弛緩した状態でCD 測定を行い、誘起したキラル情報を記憶(メモリー)させる実験も行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の研究の進捗状況としては、概ね計画通りに進んだが、必要な化合物の調製(有機合成)が予想以上に時間がかかった。特に、反応進行の検討に注力したため、測定装置を使った評価実験に少し遅れが出た。そのため、比較的高価な測定装置消耗品の使用があまり無く、これが次年度使用学が生じた主な理由である。
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次年度使用額の使用計画 |
比較的高額な装置消耗品(石英セル、石英プレート、金基板、AFM用プローブなど)の購入に当てる。次年度は装置を使用した測定が主となるので、消耗品の使用も多くなると考えている。また、研究成果の発信する機会として、国内外の学会発表に参加する予定であり、そのための旅費として予算を使用する。
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