Fe4Nの組成比を持つ窒化鉄はバルクで室温強磁性を示し、元素戦略の観点から応用が期待されている。本研究はFe4Nナノ磁性体を作製し、その構造や電子・磁気状態を極低温走査トンネル顕微鏡(STM)や放射光X線吸収分光/X線磁気円二色性(XAS/XMCD)測定により原子スケールで解明することを目的とする。平成27年度はFe4Nナノ磁性体の電子・磁気状態の制御に重点的に取り組んだ。まず、Fe4Nナノ磁性体の構造、電子状態を極低温STMにより調べ、STM探針と試料間距離に依存してSTM形状像が変化することを明らかにし(電子軌道選択トンネル過程)、責任著者としてPhysical Review Letters誌に発表した。次に、Fe4Nナノ磁性体の磁気状態を調べるため、XAS/XMCD測定を行った。結果、薄膜形状では低温環境下(~100 K)では強い面内磁気異方性を示すことがわかった。一方、ナノ構造化するとサイズの減少に伴う磁気モーメントやキュリー温度の低下が観測された。さらに、成長条件の精密制御により原子欠陥密度を変化させてXAS/XMCD測定を行った結果、原子欠陥が磁気特性に多大な影響を与えることが明らかにした。得られた結果については8件招待講演を行い、現在論文投稿中である。最後に、Fe4Nナノ磁性体の磁気状態の制御を試みた。まず、Fe4Nナノ磁性体に強磁性(Co)および反強磁性(Cr)ナノドットを吸着させ、ナノドットとの相互作用の詳細をXAS/XMCD測定で調べた。結果、Fe4Nナノ磁性体はCo(Cr)ナノドットと強磁性的に(反強磁性的に)磁気結合し、磁気モーメントやキュリー温度の著しい増大(減少)が観測された。現在は、スピン偏極STMによる原子スケール磁気構造観察や、本年度導入した高い時間分解能を有するSTMコントローラーを用いた磁気ダイナミクスの実空間観測を行っている。
|