本研究は、高温高圧下での水中での反応手法(水熱合成法)を用いて、内部に中空構造を有する結晶性シリコンナノチューブ(SiNTs) の作製手法を確立するとともに、SiNTsへの不純物ドーピングや構造制御を行なうことで電気伝導率の向上および熱伝導率を制御し、その熱電変換素子としての可能性を探求することを目的とする。中空構造であるSiNTsはバルクシリコンや代表的なシリコン系ナノ材料であるシリコンナノワイヤーに比べ熱伝導率が低いという理論計算の結果が報告されており、優れた特性を有する熱電変換材料の創製が期待できる。 本年度は主に水熱合成法による結晶性SiNTsの作製手法の確立を目的として研究を行なった。作製した試料を透過電子顕微鏡等で観察した結果、水熱合成法による結晶性SiNTsの構造と形成メカニズムについての知見が得られた。得られたSiNTsはカーボンナノチューブやグラフェンのようなsp2混成軌道に基づく構造ではなくsp3混成軌道に基づくダイヤモンド構造であることがわかった。本手法におけるSiNTsの形成メカニズムとしては、SiNTsは水中のバブルもしくは容器中の水滴を核として成長した可能性が考えられた。様々な条件下での作製実験の結果、昇温により蒸発した水が凝縮することで生じた水滴を核とした成長である可能性が高いことが示唆された。この手法はシリコン以外の元素を材料とした中空ナノチューブの作製にも応用が可能であると考えられる。
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