研究課題/領域番号 |
26790015
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
加治屋 大介 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 助教 (80448258)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超臨界流体 / 振動分光 / 溶媒和 / ナノ構造体 / 配向 / 電荷輸送 / ハイブリッド太陽電池 |
研究実績の概要 |
本研究では,超臨界流体中における溶質-溶媒間の引力エネルギーを定量化し,薄膜太陽電池の高機能化プロセスを探索する。この背景には,申請者らがこれまで行ってきた以下の研究内容が関係する。すなわち,超臨界流体中で溶質分子の振動ラマンスペクトルを測定し,そのスペクトル解析より引力・斥力を定量化する。これまでに,ハロゲンや芳香環を有する溶質分子で大きな引力エネルギーを観測している。有機太陽電池の作製プロセスでは,ハロゲン系溶媒が多用され,芳香環を有する導電性高分子が基幹材料の一つである。本研究では,太陽電池に用いられる分子性固体に特徴的な置換基に着目し,そのモデル分子での引力・斥力エネルギーを解明する。得られた知見を基に,太陽電池の高機能化を図り,デバイス性能の向上を目指す。高圧かつ高密度の超臨界流体を用いたナノ・マイクロ構造形成,洗浄,間隙へ分子導入を発展し,新たな手法を開拓する。 本年は,エステルを有する溶質分子において,高圧・高密度の超臨界二酸化炭素中での引力・斥力エネルギーを定量化し,溶媒和構造を検討した。その結果,エステルの酸素原子付近の溶媒和構造が大きな引力エネルギーに重要であることがわかった。置換基を系統的に変え複数のエステルの引力を比較検討した結果,嵩高い置換基の導入による,溶媒和の阻害と引力エネルギーの減少が観測された。薄膜の高機能化については,導電性高分子の薄膜に圧力をかけると,薄膜中の高分子が配向し電荷移動度が8倍増加した。加圧による配向は,複数の高分子で確認され,応力増加による面外方向のπスタッキング形成が検証された。以上の構造変化と移動度増加は,置換基の立体規則性が低い分子で顕著であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの達成度は,計画していた目的をおおむね順調に遂行できた。すなわち本研究の骨子である,1)超臨界流体中の引力・斥力エネルギーの定量化,2)太陽電池薄膜のプロセス探求について,新たな知見がそれぞれで得られた。1)は超臨界二酸化炭素中におけるエステルの引力・斥力エネルギーの密度依存性を複数の系で解明し,サイト選択的な溶媒和を検証した。2)は加圧によるπ共役分子の配向構造と電荷輸送特性の相関を議論した。特に,異なる温度・異なる圧力をかけた薄膜を用いて,面内の分子配向,π共役骨格の平面性増加,面外のπスタッキング構造を詳細に調べた。達成できた理由は,実行可能と考えられる計画を設定し,それに沿って研究を進めたためである。残された課題として,1)引力・斥力エネルギー研究の他の系への適用,2)太陽電池デバイスの特性向上とそのメカニズム解明が挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の1)と2)の具体的な推進方策は以下の通りである。1)超臨界流体の引力・斥力エネルギーは,平成26年度に得られた現象の理解を掘り下げる。溶質分子の酸素付近の引力相互作用を詳細に解析する。また有機太陽電池の代表的なn型材料であるフラーレン誘導体のエステル,ケトン,フェニル基,溶媒のクロロ基,並びに関連する特徴的な官能基に時間の許す限り研究展開し,引力エネルギーの大きさと特徴を探求する。2)デバイス特性の向上は,有機太陽電池のp型材料として用いられるπ共役分子の高機能化の視点から取り組む。すなわち,加圧による結晶性やπ共役骨格の構造変化の要素技術を太陽電池に応用する。また,平成26年度に研究を進めてきたシリコンと導電性高分子のハイブリッド材料・ハイブリッド太陽電池の知見と融合し,超臨界流体の極限環境場を用いたシリコンナノ構造体の乾燥や異分子導入,ハイブリッド材料設計に取り組む。材料の分子構造,集合体状態,光伝導物性の評価として,偏光吸収,振動分光,微小角入射X線回折,移動度測定等を行う。特に,平成26年度に測定できなかった,より膜厚の薄い膜での移動度測定を可能にする測定システムを新たに構築し,界面・表面処理による諸物性の変化を探る。得られた知見を太陽電池作製にフィードバックし,出来る限り高い光電変換特性を示すハイブリッド材料を創製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
備品に計上していた偏光顕微鏡の使用額が抑えられたからである。すなわち,研究の進行度に応じ構成部品を揃え組み立てた結果,各段階で必要最小限の経費に抑えられた。平成27年度も引き続き改良を推進するため次年度使用額が生じている。また,別の備品計上であったパルスレーザーの26年度使用額が抑えられている。これは,旧型レーザーの修理調整により実験可能なレーザーを準備できたためである。ただし,27年度に再度調整が必要な可能性がある。その他,成果発表の旅費について,27年度の外国での学会発表予定が増えたため(5月,10月),26年度内の旅費使用を控えた。従って,貴重な財源の節約と計画により次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
上述の,顕微鏡部品・レーザー関連・旅費で使用計画である。ただし,状況に応じ計画を適宜修正し,本研究推進のための実験消耗品にも使用する。具体的には,超臨界流体用の高純度ガス,混合ガス,薄膜太陽電池用の高分子試薬,光学部品,電気計測部品,シリコンウェハ,顕微鏡関連部品,試薬等である。以上の消耗品や旅費で使用計画である。
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