研究実績の概要 |
蛍光と光触媒作用を同時に示すマルチモーダルな光エネルギー変換物質のモデル材料として、Eu3+ドープYVO4(YVO4:Eu3+)を選択した。粒子径約20 nmのYVO4:Eu3+ナノ粒子を水溶液プロセスによって作製した。また、紫外光照射下において、得られたナノ粒子がEu3+による赤色蛍光と、有機色素の光触媒的分解作用を同時に示すことを明らかにした。 上記のマルチモーダルな光エネルギー変換系において、蛍光と光触媒のどちらのモードにどのくらいエネルギーが分配されるかを決める因子を探究した。粒子サイズがほぼ等しく、発光イオンであるEu3+の濃度と分布状態が異なるYVO4:Eu3+ナノ粒子を作製し、蛍光量子効率と光触媒活性を定量した。その結果、Eu3+濃度の増大とともに蛍光量子効率は増加し、光触媒活性は低下した。また、Eu3+をナノ粒子表面に局在させると蛍光量子効率は低下し、光触媒活性は増加した。以上より、蛍光と光触媒作用の間には相補的な関係があり、制御して一方のモードを優先的に引き起こせることを明らかにした。以上の結果をとりまとめ、学術誌に投稿し掲載された(J. Phys. Chem. C 119, 13502)。 一方で、YVO4:Eu3+ナノ粒子と光触媒の被分解物である有機物が共存した状態で、蛍光量子効率や蛍光強度の経時変化を測定し、蛍光が外部環境(表面有機物の有無)によって影響を受けるかどうかを探究した。その結果、還元力の強い有機物のみ蛍光強度を低下させることが示唆され、マルチモーダルな光エネルギー変換系が蛍光強度の変動を利用した還元剤のセンシングに応用できる可能性を明らかにした。
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