研究課題/領域番号 |
26790018
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
伊村 くらら 中央大学, 理工学部, 助教 (60707107)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ナノ粒子 / 分散 / 分子集合体 / 刺激応答性 / 吸着 |
研究実績の概要 |
本年度は、新規に合成した両親媒性化合物C16CAの貴金属表面に対する吸着特性の評価を行い、さらにこれを用いた貴金属ナノ結晶の分散制御とpHに応答した分離回収について検討を行った。 親水基部にアミノ基とカルボキシル基をもつC16CAは、等電点(pH3.5)を中心としたpH領域でラメラ構造からなる分子集合体を形成することが明らかとなった。pH変化によって親水部の官能基がプロトン化すると、pH6以上ではラメラからミセルへと可逆的な集合形態変化をもたらすことが示された。さらにQCM法を用いた吸着測定によって、貴金属表面への吸着形態は、貴金属の種類やpHに応じて大きく変化することがわかった。 金および銀表面には、アミノ基とカルボキシル基の両方が吸着に関与するためC16CAの吸着はいずれも強く、吸着量から見積もると塩基性条件下の水中では二分子膜の吸着構造をとっていることがわかった。これは、C16CAが金および銀ナノ粒子の分散保護剤として用いるのに有効であることを示しており、クエン酸やCTABなどの既存の配位子を用いて調製した貴金属ナノ結晶の表面保護をC16CAで置き換えて刺激応答性などの機能を付与することが可能であった。 貴金属ナノ結晶存在下でpHによるC16CA分子集合体転移を試みると、ナノ結晶がラメラへ吸着し取り込まれ、液中からこれを回収することに成功した。さらに、貴金属ナノ結晶存在下でのラメラが形成するpH条件は、金と銀で異なっていることがわかった。これは、ナノ結晶ごとの表面電位の違いがC16CAの分子集合形態および吸着形態に影響を及ぼしたためと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
両親媒性化合物の貴金属表面への吸着動態は、これまでにアニオン性とカチオン性それぞれの分子構造においてよく報告されており、C16CAについても親水部のプロトン化状態に沿って規格化された変化を起こすと予想していた。しかし、両イオン性構造をとるCnCAの吸着特性は、既存のものと比較するとより複雑であることがわかった。これは、静電的な反発力や斥力、溶媒親和性の差によって、吸着の際の分子配向に違いが生じやすいためと考えている。 この性質を用いると、当初の計画にあった水相中での貴金属結晶の分離回収からさらに発展して、非水溶媒を用いた系での分離回収や相間移動に応用できることがわかった。pHに加えて溶媒への応答性を考慮すると、より効率的なナノ結晶の分離回収が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度までに得た、金と銀表面に対する吸着動態の違いを利用して、合金ナノ粒子についての分離回収を試みていく。これは、金に対する銀のドープ率によって、ナノ結晶を回収できるpH領域などが連続的に変化していくと予想している。 さらに、異方形態を持つ金ナノ結晶についても分離回収の検討を行う。これには、C16CAが金(100)面などの特定の結晶面を安定化する保護配位子となりうるかどうかが焦点となる。まずはCTABを用いて調製した金ナノロッドに対し、調製時の配位子との混合吸着層を形成し、形態への影響および外部刺激に応じた分離回収について検討していく。分離回収ならびに再分散前後でのナノ結晶への影響を調べるには、電子顕微鏡の他、表面プラズモン吸収や触媒特性の評価を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗により、当初の予想とは異なる知見が得られたことから、当初の申請に含まれていない機器アタッチメントの購入を検討することになった。これを導入するには、見積額および納期の都合から、平成27年度配分額との合算が妥当であると判断したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の進捗状況から、両親媒性化合物の貴金属表面への吸着挙動をより詳細に調べる必要が生じた。これには、初年度で購入したQCMのディップセルに加え、フローセルを用いた測定が望まれる。また、基板の前処理としてプラズマ照射装置の導入も検討している。これらは、次年度使用額に平成27年度請求額の一部をあわせることで購入が可能である。
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