研究課題/領域番号 |
26790019
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
冨永 亜希 九州大学, 総合理工学研究科(研究院), 助教 (50590551)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 物理成長気相法 / 同軸型アークプラズマ銃 / 超ナノ微結晶ダイヤモンド / 粉末ダイヤモンド / 放射光測定 / 磁性材料 / 機能材料 |
研究実績の概要 |
同軸型アークプラズマ銃(CAPG)を用いてナノダイヤモンド微粉末に作製場で機能化目的のためのCrをドープさせる装置を組み上げることに成功した. 粉末中のダイヤモンドの存在の確認は,透過型電子顕微鏡(TEM)および粉末X線回折(XRD)を用いて行った.TEMの電子線回折でdiamond-111の回折リングを確認した.diamond-111リングの一部を用いて結像した暗視野像で結晶の存在を確認できた.暗視野像より,約数十 nmの輝点を観測した.粉末XRDは,佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS)のBL15において測定した.XRDパターンより,diamond-111およびdiamond-220に起因するピークを確認した.Scherrerの式より,結晶の大きさは10 nm 以下の微結晶であることが確認された.本方法で予めCrを混ぜ込んだ原料からも粉末ダイヤモンドの作製出来る事が証明された. 本法で作製した粉末ナノダイヤモンドの密度測定に成功した.ナノダイヤモンド粉末の密度(比重)測定は,浮沈法を用いて行った.この結果より,ナノダイヤモンド粉末の約1.77 g/cm3と推定された.しかし,この値はダイヤモンドの密度の値(3.52 g/cm3)と比較して非常に小さかった.そこで,粉末中のダイヤモンドと水素化アモルファスカーボンの密度を,それぞれ3.52, 1.40 g/cm3と仮定した時,浮沈法により得られた密度(1.77 g/cm3)を用いて,粉末中のナノダイヤモンドの割合は約35%と算出された. Cr-dopedナノダイヤモンド粉末の磁気特性をVSM,SQUIDを用いて調査したところ,室温においてCr-dopedナノダイヤモンド粉末のヒステリシスループが得られた.しかしながら,磁性の発現は再現性が悪く,同じ条件で作製しても磁性を示さない試料が存在した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
XAFSの結果からCに結合したCrの2価の存在が確認されており,磁性の発現する理論予想と同じ結果が実証されている.しかしながら,ドーピング元素の存在位置の全体像が掴めていないのが現状である.言い換えると,ダイヤモンドの存在とCに結合したCr2+の存在は確認できているが,それがダイヤモンド格子内のCr2+であるかどうかは現在のところ判明がつかないという状況であるということだ.詳細を導けなかった要因の一つとして,シンクロトロン実験の実験時間の確保が通年より出来なかった事も挙げられる.この理由は,施設側の長期シャットダウンに伴うものであり,申請課題を通すことは出来たが,日程調整の段階で日程を合わせられなかった. 粉末ナノダイヤモンドの磁性発現の再現性が悪い状況である.磁性測定は,VSM(福岡工業大学所在)は利用がし易い環境にあったが,原因究明の為により詳細な情報が得られるSQUID(九州工業大学所在)は液体ヘリウムの準備の問題とマシンタイムの競合から実験時間を十分には確保できなかったので,今後,材料の改善とともに新たな利用施設の検索も行っていきたい. さらに磁化の起原を直接的に見積もるために材料測定を希望していた実験施設(J-PARC)の予定外の運転停止に伴い,課題申請自体が行えなかった.こちらも,磁性発現の再現性を向上させると共に,課題申請のタイミングをうかがいたい.更に,相補的に材料を評価するため,シンクロトロン(Spring8を考えている)を利用した磁化の見積実験も行うべく,利用相談や課題申請を積極的に行おうと思っていたが,こちらも,まだ,展開できてない. 予測していなかった粉末ナノダイヤモンドの密度を測定することに成功し可能となったため,材料の構造を知るためのESR測定や放射光を使ったXRR測定,SAXS測定を行い解析する手立てを得ることが出来たことは大きな進展である.
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今後の研究の推進方策 |
XAFSの結果からCに結合したCr+2価の存在が確認されており,磁性の発現する理論予想と同じ結果が実証されているが,ドーピング元素の存在位置の全体像が掴めていない.更に,磁性発現の再現性の悪さもこのCr2+の本サンプルでの存在位置が原因では無いかと考えている.密度測定において水素圧力53.3 Pa,放電エネルギー3.6 J/pulseの条件において作製した粉末ナノダイヤモンドには,多量の水素化アモルファスカーボンが含まれていた.この非ダイヤモンド相にCr原子が導入された事が原因で,磁気モーメントが発現しなかった可能性が考えられるため,粉末作製条件(主に放電条件と作製雰囲気の変更)を行っていきたい.ドープする元素をダイヤモンドに取り込まれやすいB等と磁性に寄与する可能性のあるCr等を共ドープさせ,誘引的に格子内に取り込まれやすい状況をつくりたい.また,密度測定のシステムを実験室内に構築できたので,これを指標にサンプル内のダイヤモンド成分の向上を検出して行くのと同時に適合条件を絞り込んでいきたい.材料作製にフィードバックをかけるため,現状の試料の磁気,構造の解析をこれまで測定してきているSAGA-LSや福岡工業大学や九州工業大学の施設での課題申請を含めた利用を行いつつ,新規にSPring8やJ-PARC等の施設にも積極的の課題申請を行い,現状サンプルの磁化の直接的な見積を行い,粉末ナノダイヤモンド磁性材料創製に活かしたい.更に,磁性機能付与後の応用化に向けて本サンプルの形状や形態評価,表面特性評価を行っていくことを考えており,評価装置(具体的には,比表面積測定装置や表面電荷測定装置)を所有しているところに利用交渉のお願いを行っていく.
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備考 |
九州大学-研究者情報は主に報告者本人の業績がまとめられている.また,波多・吉武研究室 吉武グループHPには報告者の業績を含む本件以外の仕事の業績もまとめられている.
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