研究課題
一次元構造の半導体ナノワイヤは、将来の量子ナノデバイスの構造として有望であり、結晶成長技術の確立が望まれている。これまで、ガリウム砒素(GaAs)基板上において、金(Au)を触媒として用いたGaAsナノワイヤの成長技術は確立されているものの、混晶であるインジウムガリウム砒素(InGaAs)ナノワイヤについての報告例は少ない。InGaAsはInとGaの組成比によって、バンドギャップエネルギーを広範囲に制御できる特徴があり、デバイス応用上も重要な材料である。平成27年度は放射光施設SPring-8(BL11XU)に設置の結晶成長その場X線回折装置を利用し、GaAsへのIn添加がナノワイヤ成長に与える影響を検討した。放射光を用いたその場X線回折の結果から、GaAsナノワイヤにInを添加するとナノワイヤの成長速度が低下し、結果的にナノワイヤが下地の二次元層に埋没してしまうことがわかった。さらにIn組成を高くするほど、ナノワイヤの成長速度は著しく低下することも明らかになった。その原因を追究するため、熱力学計算および電子顕微鏡による組成分析を実施した。その結果、Au触媒中のInはGaに比べてナノワイヤ結晶に取り込まれにくく、供給比の3倍以上のInはAu触媒中に残留することが示唆された。Au触媒にInがある程度溜まると、Au触媒はナノワイヤの成長に必要な固体状態から液体状態に変わるため、ナノワイヤ成長が阻害されたと考えられる。これを克服するため、Au触媒の共晶融点以下に成長温度を低温化した。その結果、高いIn組成においてもナノワイヤの成長速度の低下を抑えることができ、InGaAsナノワイヤの成長技術を確立することに成功した。本研究の実施により、放射光を用いたその場X線回折はナノワイヤの構造解析に有用であることが示された。今後は窒化物半導体などの各種材料系へ適用範囲の拡大が期待できる。
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