現在,走査電子顕微鏡法(SEM)では信号電子のエネルギー弁別検出が注目されており,後方散乱電子のエネルギー領域においても,低エネルギー損失電子を選択的に検出することで,ナノ材料評価に有効な表面・組成敏感な顕微鏡像が得られることがわかってきた.しかし,低エネルギー損失電子像のコントラスト形成メカニズムの解明や検出エネルギーの最適化といった多くの課題が残されている.本研究では,電子分光的アプローチを導入することで,放出電子スペクトルから像形成の解明を進めている. 本研究でははシリコン基板上にLB法により配置したチタニアナノ薄膜を典型試料とし,その低エネルギー損失電子像の像形成を調査した.SEMによる像観察では後方散乱電子検出器のエネルギーフィルターにより検出エネルギー条件を変化させながらSEM画像を取得した.このSEM像と電子分光装置よりに得られた放出電子スペクトルを比較することで,薄膜試料低エネルギー損失電子像における基板に対する薄膜のコントラスト形成を議論した.本試料においては,低エネルギー損失電子うち,とくにプラズモンロスピーク付近のエネルギーをもつ電子で薄膜と基板とで放出電子強度に大きな差異が見られた.このエネルギー領域の電子を選択的に捕集することで後方散乱電子像にナノ薄膜の情報を強調したコントラストを与えられることが明らかとなった.さらに,種々の金属試料観察をとおして,所謂反射電子像と低エネルギー損失電子像の差異についての検討を進めた.
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