本研究の目的は、制限ナノ空間による流体中の物質輸送現象を分子レベルで解明し、この知見をもとにイオン電流変化とインピーダンスの同時測定による一分子識別を実現することである。 具体的には、ナノポアを介したイオン電流の時間変化からナノポアを通過する物質の体積を測定し、ナノポアに組み込まれたナノギャップ電極間の交流インピーダンス(インピーダンスと位相角)測定から物質通過中の抵抗・容量測定を行う。これらの同時測定により、制限ナノ空間内の通過物質の物性と物質輸送のダイナミクスを一分子レベルで解明する。更に、体積の等しい一分子であっても、その材料物性(金属・絶縁体)によって識別可能であることを実証する。 本年度は昨年度構築した計測系をもとに、ナノ―マイクロデバイスの作製とそれを用いたインピーダンス計測を行った。ガラス基板上に作製したナノギャップでは寄生容量はfF以下に低減できていたが、一方で測定結果にはデバイスの設置位置や配線に起因した容量の変動も観測され、これが無視できない大きさであることが分かった。そこで、ナノギャップ組込み型ナノポアの近傍に微小流路を形成し、溶液導入前後でのインピーダンス変化について計測を行った。その結果、交流周波数10Hz以下の領域において拡散に起因するワールブルグインピーダンスが観測された。これはナノギャップ―ナノポア内での溶液拡散を反映するものと考えられ、ナノ空間内での流体の挙動に関する知見を得ることができたと考えられる。 しかしながら、配線やデバイスの歩留まりといった技術的な問題が残っており、一分子計測に関する系統的な計測には課題が残ったかたちとなった。
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