研究課題/領域番号 |
26790029
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
八巻 和宏 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90579757)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 固有ジョセフソン効果 / 高温超伝導 / 電磁波放射 |
研究実績の概要 |
ビスマス系酸化物高温超伝導体は結晶構造にジョセフソン接合を内在する固有ジョセフソン接合を形成しているため、膨大な数の多積層ジョセフソン接合をコヒーレント協調させることで高出力の電磁波放射現象が期待できる。 高温超伝導体発振素子の高出力化に向け、自己フラックス法、フローティングゾーン法によるビスマス系単結晶の育成を行うと共に、直列接続した発振素子にグランドプレーンを形成した素子を試作した。単結晶体に微細加工を施すことで固有ジョセフソン接合列の取り出しに成功し、液体ヘリウム温度で典型的なアンダーダンプ超伝導体ジョセフソン接合の電流電圧特性を得た。同時に、素子からの電磁波放射をビスマス系高温超伝導体検出器の臨界電流近傍での電圧値の変化から確認した。この発振素子の上部に絶縁層を介して金のグランドプレーンを形成し、形成前後での発振特性を比較した。発振時の印加電圧範囲がグランドプレーン付与の前後で鋭敏に変化したことから、グランドプレーンを介した共振モードの実現が示唆される。その一方で、発振素子の最大印加電圧値の変化から熱の影響も大きいことが分かった。 新たな固有接合系探索の一環として、ビスマス系超伝導体へのイットリウム添加効果やルテニウム系超伝導体の結晶合成を進めている。ビスマス系に関してはイットリウムを添加することで固有接合に印加できる最大電圧を上昇させることに成功した。ルテニウム系に関しては多結晶体で49 Kをオンセットとする超伝導転移を確認すると共に、自己フラックス法を用いて焼成温度、出発原料組成、るつぼ材などを系統的に変化させて単結晶成長条件を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ビスマス系高温超伝導体単結晶を自己フラックス法に加え、フローティングゾーン法によっても育成した。得られた単結晶から微細工技術を用いてジョセフソン接合列を取り出すことに成功した。 ビスマス系高温超伝導体発振素子を作製し素子からの電磁波放射を確認すると共に、発振素子にグランドプレーンを形成し、その形成前後で発振特性の変化を評価した。発振素子によって発振電圧範囲がシャープになる、ブロードになるといったばらつきが現状では存在する。 ビスマス系超伝導体のカルシウムサイトにイットリウムを添加し、素子への最大印加電圧値を上昇させることに成功した。
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今後の研究の推進方策 |
ビスマス系高温超伝導体単結晶育成に関しては、自己フラックス法、あるいはフローティングゾーン法を用いた欠陥密度の低い良質な単結晶育成条件を探索する。 グランドプレーンの形成に関しては、発振特性に影響があることは確認できたものの、素子間のばらつきも大きく、未だ定量的な議論には至っていない。グランドプレーンの材質、厚み、素子との距離などパラメータが多いが最適な条件の探索を今後も進めていく。 イットリウム添加は最大印加電圧値を上昇させたものの、一方で臨界電流値が減少しトレードオフの関係が見られた。発振素子に大電力を印加するため素子加工技術を向上させ電極作製条件などを見直し接触抵抗値を下げる。 ルテニウム系超伝導体に関しては目的組成に近い微小結晶が得られたので、合成条件の最適化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の予算を用いて管状型電気炉を導入し、1300 oCまでの温度で焼結できる環境を整えた.この際、部品を個別に購入し装置を構成したため、想定よりも若干、繰り越しが生じた.また、予定していた液体ヘリウムに関しては研究協力者との兼ね合いなどもあり、次年度以降に持ち越すこととした.結晶成長に関しては受け入れ先の山梨大学クリスタル科学センターの受け入れ環境などもあり繰り越しを行った.
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は発振素子の特性を評価するため、冷却に液体ヘリウムを使う必要性の高い実験を多く行う予定であり、消耗品の使用額の増加が見込まれる.また、グランドプレーン用金属(ターゲットや薄片)の購入や、微細加工用のメタルマスクなどに支出する.また、受け入れ先との兼ね合いもあるが、研究協力者を訪問して外部でも積極的に研究を進める.併せて、この分野における世界的な国際会議に参加し、情報収集と成果発表を行う.
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