これまでの2ヶ年において金のグランドプレーンを用いた共振効果の検証、希塩酸改質法を用いた発振器外部とのインピーダンスのミスマッチングの解消といった観点から研究を進めてきた。金のグランドプレーンを用いることで発振現象の生じる電圧領域が急峻になり共振がより強固になったという成果はあったものの、発振出力の顕著な増大は見られなかった。希塩酸改質法に関しても発振メサ接合端部のアンダーカット、更には自己発熱効果の問題が存在する。 そこで今年度はメサ上部の電極構造を従来から変化させ局所的に電流が集中するような2段メサ構造を作製することで、局所的に超伝導状態が破れたホットスポットを任意の場所に出現させることが出来るか検討した。同一結晶上に作製したメサ構造において、電極メサの面積に応じて臨界電流ICが減少したことから、電極メサにおける発熱がベースメサ内の固有ジョセフソン接合特性に影響を及ぼすことが示唆された。また、小面積の電極メサからベースメサへバイアス電流を注入した場合、電極メサの設置場所及び電極メサ内の固有ジョセフソン接合数に依存して、電流―電圧特性において2段あるいは多段の電圧ジャンプが観測された。このとき、電圧ジャンプ幅は電極メサとベースメサ内の接合数比には対応しておらず、メサ内の発熱と廃熱の収支関係に関連することがわかった。また、固有ジョセフソン接合テラヘルツ波発振素子は内部ブランチにおいても発振することが知られているが、幅50マイクロから120マイクロまでの試料を直列に接続して発振強度が増大するか検討したものの、顕著な出力の増加は見られなかった。 新奇固有接合系探索の一環として今年度もRuGd1212単結晶の合成に取り組んだ。熱処理条件の最適化により一辺150マイクロメートルの単結晶の合成に成功し、バルク体としては世界で初めてとなるc軸配向したエックス線回折図を得ることに成功した。
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