研究課題/領域番号 |
26790043
|
研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
ティユ クァン・トゥ 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30725742)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 窒化インジウム / MOVPE / 電気伝導特性 |
研究実績の概要 |
本申請研究では、高品質薄膜の成長に成功例がないInNのMOVPE成長に焦点を絞る。これを実現するためには、十分な活性窒素を供給可能と予想される有機窒素原料であるジメチルヒドラジン(DMHy)をアンモニア(NH3)と併用している。DMHyはIII-V-N 型混晶(InAsN、GaAsN...)でそれをN原料に用いることにより低温成長にて熱力学的に非混和度が高いNを数%まで添加することに成功した例がある。そのため、低温成長が必須であるInN成長でもDMHyを用いることによりN空孔を低減させ、残留キャリア濃度の低減を目指している。 本研究では、NH3はボンベより供給するに対し、DMHyはバブラーにより蒸気の状態で供給するためその分圧に上限がある。この2種のN原料を自由な分圧比で供給するためには、広い範囲で流量を制御できるマスフローコントローラーを導入した。これより、NH3とDMHyを併用した場合、NH3の分圧をDMHyと同程度の値まで下げて供給することが可能となった。 平成26年度は、InNのMOVPE成長において、成長温度、V族対III族およびNH3対DMHyの原料供給比の最適化を行い、InドロップレットおよびN空孔が低減できる条件を探った。しかしながら、NH3とDMHyを併用した成長実験では、InドロップレットなしのInN薄膜は未だ実現していない。成長した膜には、Hall効果測定により残留キャリア濃度が10E19 cm-3以上と高く、電子移動度もがまだ数百cm2/V.s程度であった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
MOVPE成長したInNにおいて、高品質化を目指してNH3とDMHyを併用したが、電気伝導特性に改善がみられなかった。NH3のみを用いた実験と比べ、DMHyと併用した場合は成長表面にInドロップレットの増加が確認されている。これは、DMHyの熱分解で生成されるH2によるInNのエッチング効果のためだと推測している。また、DMHyとTMInは二重ノズルを用いることで成長部の直前までそれぞれの供給が分離されているが、気相中寄生反応の影響は完全に無視できない。
|
今後の研究の推進方策 |
これまで窒化したサファイア基板上、つまりN極性のInN成長を行ってきたが、今後はIn極性InNの成長にて、NH3とDMHyを併用した実験を実施する。In極性InNはN極性InNよりもH2によるエッチングに対する耐性があるため、エッチングの効果ひいてはInドロップレット生成の低減が期待できる。In極性InNを成長させるためには、Ga極性GaNテンプレートやGaNバルク基板を使用する予定である。ただし、In極性の場合はN極性InNより熱耐性が低く、より低温成長が必要なため、成長後はNH3+N2の雰囲気での熱処理も検討する。 また、寄生反応に関しては、それを現在の分離供給法よりさらに抑制するために両極性のInNの成長実験においてIII族原料のパルス供給を実施する。そのために、バルブ制御が出来るよう制御装置の自作を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度では、InNの電気伝導特性の向上が達成できておらず、予定より研究が遅れているため計画していた反応系の改造にかかる費用を、平成27年度に繰り越すことにした。また、III族極性での結晶成長が生じたため、III族極性の下地基板が必要となる。 具体的に、これまで基板結晶としては、汎用性の高いサファイアを使用しており、N極性InNのみを作製してきている。平成26年度でDMHyを用いた場合に、H2によるエッチング効果がInドロップレット生成をもたらすことが分かった。H2によるエッチングを抑制するには、In極性InNを成長させる方が有利だと考えられる。そのため、Ga極性GaNテンプレートやバルク基板の使用を新しく検討する。
|
次年度使用額の使用計画 |
InNのMOVPE成長において、下地基板としてはサファイアのほかにIn極性InNをめざしGaNテンプレートやバルク基板も検討する。N原料は引き続きDMHyをNH3と併用するが、実験の進展次第で、新規N原料であるターシャリブチルヒドラジン(TBHy)も検討し新しく購入する。反応管改造に予定していたノズル等の石英部品の予算は平成26年度内に使用せず、次年度に繰り越した。平成27年度の分は26年度に購入を予定していた物品のほか、原料ガスの供給を制御するために必要な配管部品や制御用バルブ・電子部品等に充て使用する予定である。 また、GaN上にInNを成長させた場合、下地のGaNの電気伝導性のためホール効果測定ではInNの伝導特性を正しく見積もることができない。そこで、外注で赤外分光法等によってInNの電気伝導特性を評価する予定である。その他、調査・成果発表のため国内外の学会参加に旅費、投稿関連費用が必要である。
|