研究実績の概要 |
本研究では、フェムト秒時間分解電子回折実験・および計算両面から光励起にともなう電子回折強度への(原子間)ポテンシャル変化の影響を明らかにした。実験では、相対論的電子パルス(3MeV,時間分解能150fs)を用いたフェムト秒時間分解電子回折法により、高密度励起条件で貴金属薄膜(Au、Ag)の結晶溶融過程を追跡した。非可逆変化のため1電子パルス(シングルショット)方式で行った。一方、理論計算では、 1)二温度モデルと分子動力学法を組み合わせた理論計算から励起後の原子位置を計算し実験で得た回折強度と計算でのそれとを比較した。41mJ/cm2以下の励起密度の場合には実験と計算で得たBragg回折強度の変は良い一致を示した。その結果、27mJ/cmでは、heterogeneous melting、41mJ/cm2では、homogeneous melting過程になっているとわかった。一方、41mJ/cm2以下の場合と同様の計算手法を用いると、108mJ/cm2で得たBragg回折強度の変化を計算で再現できなかった。この原因を励起状態下の電子温度の上昇によるものと考え、原子間ポテンシャルの電子温度依存性を計算に取り込んだところ、実験結果を再現することができた。高励起状態での電荷再分布による原子間ポテンシャルの変化は、安定位置(格子定数大)と結合定数の変化を導き、結果として溶融が加速すると考察される。この結果は、従来半導体で報告されていたnon-thermal meltingが金属においても生じている証拠であると考えられる。また、この結果は、Auの原子散乱因子が時間変化しうるという直接的な証拠であるともいえる。
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