研究課題/領域番号 |
26790054
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工 |
研究代表者 |
青野 祐美 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 電気情報学群, 講師 (80531988)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 光誘起体積変化 / 光熱効果 / 分光分析 |
研究実績の概要 |
アモルファス窒化炭素薄膜の光誘起体積変化について、本年度はそのメカニズムの解明を目的とし、研究実施計画に沿って、専用チャンバーを使用した加熱測定および分光測定を主として行った。 加熱測定とは、照射光が光熱変換されることで生じる熱が光誘起体積変化に及ぼす影響、すなわち光誘起体積変化に含まれる熱膨張・収縮の割合を調べることを目的とした実験である。当初、専用の真空チャンバーを用意し、加熱しながら体積変化を測定する予定であったが、装置の不具合により実施できなかった。そのため、雰囲気温度の制御や、熱拡散係数の異なる2種類の基板を用いるなどして実験を行った結果、アモルファス窒化炭素の光誘起体積変化に及ぼす熱の影響は無視できる程度であることが明らかとなった。 分光測定とは、アモルファス窒化炭素の光誘起体積変化メカニズムを特定するため、350-750 nmの間で体積変化が最大となる波長を調べた。得られたスペクトルは全波長域にわたりブロードであり、特に約450 nmの光に高い応答性を示した。光学バンドギャップなどから、光誘起体積変化は単一の化学結合状態によって引き起こされるということは無く、多様な結合が複雑に影響を及ぼしていると思われる。先に示した450 nm付近の光を照射しながら化学結合状態を調べた結果、光を照射した状態で赤外吸収スペクトルの変化は見られなかったことからも、特定の結合の増減が原因ではないことを示している。 さらに、27年度に実施する予定の長時間光照射実験の一部を実施した。 これらの実験結果から、アモルファス窒化炭素の光誘起体積変化は、結合の組み替えなどによる可逆的な変化はほとんどなく、二重結合を中心とする結合のわずかな変化(結合角や結合長の変化)である可能性が得られた。これらの知見はデバイス応用に向け、より大きな体積変化が得られる膜の作製に今年度の成果は活かされる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はアモルファス窒化炭素薄膜の光誘起体積変化に占める熱の影響を調べるため、加熱による短冊形試料の曲がり量を測定する計画であった。しかしながら、準備した加熱用チャンバーの試料固定用ホルダーでは、試料を長時間安定して保持することが難しいことがわかり、装置の改良が必要となったため、チャンバーを用いた加熱実験は実施できなかった。その代替案として、熱拡散率の異なる2種類の基板を用意して光熱変換で生じる発熱を利用して光誘起体積変化における熱の影響を調べた。さらに、外部から熱を与える方法として、ホルダーを加熱するのではなく、測定雰囲気の空気を暖めて試料の温度を変化させるなどの工夫を行った。その結果、ホルダーを加熱しなくとも当初の目的である、光誘起体積変化に及ぼす熱の影響を明らかとし、学術論文として発表することができた。 H26~27年度にかけて実施する予定の分光測定および長時間光照射についても、おおむね実験は順調に進んでいる。分光測定は、基板温度を変えて作製した結合状態の異なる7種類の試料の比較検討を予定しているが、現在までに5種類の試料において測定が終了している。これらの試料においてスペクトルと基板温度との間には顕著な相関は見られなかった。長時間測定については、通常数秒の光照射時間を1~8時間として、試料の変化を調べている。これまでのところ、光誘起体積変化と同様の条件下においた試料の光電子分光法、ラマン散乱分光法を行い、顕著な変化が見られないことを確認している。光誘起体積変化と欠陥生成の関係を調べる実験では、ホール測定と電子スピン共鳴を行う予定であるが、電子スピン共鳴についてはH26年度中に実施し、欠陥の生成と光誘起体積変化との相関は低いことが明らかとなりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に沿って、27年度では以下の目的で実験を行う。 ①光誘起体積変化メカニズムの解明に向け、長時間の光照射による欠陥の生成の有無を調べる。 ②デバイス応用に向け、応答速度、体積変化率などを明らかにする。 ①では、専用真空加熱チャンバーのホルダー部分を改良し、水分の影響などを除去した真空中で、長時間の光誘起体積変化測定を実施する予定である。これらの結果と、光電子分光法、ラマン散乱分光法、電子スピン共鳴法から得られた結合状態の不可逆な変化や欠陥生成の有無を比較検討し、アモルファス窒化炭素薄膜の体積変化メカニズム解明を推進する。また、励起光照射条件を連続光および断続光とし、デバイス応用を視野に、アモルファス窒化炭素の光誘起体積変化の可逆性が維持できるフォトン数やエネルギーも調べる。 ②の応答速度は高速度カメラなどを利用し、変形に要する時間を計測する。また、基板の厚さを現在の0.05 mm以外に0.03, 0.07, 0.10 mmを準備し、デバイス応用に向け、光照射によるアモルファス窒化炭素の体積変化量と機械的出力を明らかにする予定である。これらの実験は特別な装置を使わず、これまで使用していた光誘起体積変化測定系を利用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費等の実費計算の差額により生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
前年度分を含め、主として学会発表等で使用する予定である。
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