アモルファス窒化炭素(a-CNx)薄膜に可視光を照射した際に体積変形が起こることを発見し、その起源の解明と光駆動デバイス応用を目指した研究を行った。 a-CNx薄膜に照射された可視光は、熱エネルギー(光熱変換)、力学的エネルギー(光誘起変形)、電気エネルギー(光電効果)にそれぞれ変換される。1年目は、光熱変換による熱膨張もしくは熱収縮と光誘起体積変化の関係を明らかとした。温度可変機構を有する光体積変形評価専用のチャンバーを設計し、それを用いて、加熱のみ、加熱と光照射、光照射のみの3条件で、熱膨張係数の異なる2種の基板を用いて熱の影響を調べた結果、光誘起体積変化には熱の影響は見られるものの、大部分は光が直接力学的エネルギーに変換されていることがわかった。またそれには窒素の存在、特にC=N結合が重要であることが明らかとなった。 2年目には、長時間可視光をa-CNx薄膜に照射した場合にも、欠陥の生成や結合状態の変化は起こらず、体積変化は光照射時に一時的に起こる可逆的変化であることを明らかにした。 3年目は、合成石英、シリコン、ポリマーフィルム等に成膜したアモルファス窒化炭素薄膜を用い、光駆動デバイスへの応用を検討した。中でも変形の阻害要因である剛性が低く、大面積化が容易であるポリマーフィルムを基板とした資料において、目視可能な大きな光変形量が得られた。このポリマーフィルムを用いた光駆動ポンプの試作を行った結果、10 Hz程度まで駆動することが明らかとなった。液体を用いた際は、ポリマーフィルムでは押し出す力が弱く、合成石英ではa-CNx薄膜が剥離するという問題が明らかになった。 本研究では、a-CNx薄膜の光誘起体積変形がこれまで知られている半導体薄膜の変形機構とは異なることを明らかにし、実際に光駆動ポンプの試作を行うことで、炭素系薄膜の新しい応用分野の開拓を行った。
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