研究課題/領域番号 |
26790058
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
北川 晃 高知大学, 教育研究部人文社会科学系, 講師 (90450684)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 量子光学 / 光ファイバ / 屈折率 / エバネッセント波 |
研究実績の概要 |
従来は波動光学の範囲内で扱われていた光導波路(光ファイバ)を伝搬する電磁波について,その量子論的な表現を求めた.本研究では,以下の4つの各テーマについて新たな知見を得た. 1.波動光学で巨視的に導入される屈折率を,微視的な視点から導出した.電磁波と原子の電気双極子による相互作用ハミルトニアンを書き下し,コヒーレント状態で期待値を取ることにより,量子論的な表現が得られた.これにより,量子光学での表現においても,実効的に屈折率を用いてよいことがわかった. 2.誘電体境界面における電磁波の反射・透過現象の量子論的な表現を導出した.波動光学においてはフレネル係数を用いて定式化されているが,エネルギー保存の法則を満たすために補正係数をかける必要があった.本研究において,境界面に垂直方向に流れるエネルギー密度を考慮して電磁場を規格化することにより,規格化されたフレネル係数を導いた.これにより,入射・出射電磁波がユニタリ変換で結びつけられることを見いだしたが,この変換は量子光学におけるビームスプリッター演算子による変換と等価である.臨界角を超える角度で入射する電磁波は全反射を起こすが,量子論的な不確定性関係を考えることで,全反射面を波長程度超えてしみ出すエバネッセント波についても説明できる. 3.屈折率が任意の空間分布を持つ領域内を伝搬する電磁場の量子論的な表現を導出した.空間を有限幅の領域に区切り,それぞれの境界面ではテーマ2.での標識に従って電磁場は反射・透過する. 4.以上のテーマで得られた知見を用いて,光導波路内部を伝搬する電磁波について,量子光学的な見地から調べた.特にコヒーレント状態で期待値を取ることにより,波動光学と矛盾のない表現が得られることがわかった.今後は単一光子状態などの非古典的な光の場合や,より複雑な空間分布を持つ光導波路の場合について調べる予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光導波路内の電磁場伝搬について,通常はそれなりの強度を持った信号が想定されているため,これまでは古典的な波動光学を用いた記述がなされていた.しかし本研究テーマにおいて,量子光学的な微弱信号の場合に適用するに当たり,屈折率,境界面における電磁波の反射・透過特性などが同じく適用できるかを調べる必要があった.これまでの研究で,より微視的な視点からの表現が得られており,特にコヒーレント状態の場合には波動光学における手法と大きな矛盾はないものである.またこうした量子光学的な表現を用いて,もっとも基本的な構造の光導波路の伝搬特性の解析まで済んでいる. 今回得られた知見は,古典光学と量子光学における表現を橋渡しをするものであると考えられる.特にコヒーレント状態は擬古典的な量子状態であり,これを用いることで波動光学における表現に対応する量子光学的な表現が得られている.光導波路による微弱信号の伝搬に従来の波動光学による手法がどこまで適用でき,何が不可能であるかが明らかになったと考える.以上の点は本研究テーマの中核部分であるが,当初の計画通りの進捗状況であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究では,主に擬古典的な量子状態であるコヒーレント状態の場合について考察を進めてきた.今後はスクィーズド状態や単一光子状態など,さまざまな非古典的な量子状態の場合についても調べていきたいと考えている.特に単一光子状態については,電磁場の期待値がゼロとなることが知られており,コヒーレント状態の場合に用いた手法がそのまま利用できない可能性がある.こうした問題を回避するために,光子数状態をコヒーレント状態で展開するなどの方法が考えられる. これまでのところ,光導波路内の電磁場は定常的な空間分布を持つ場合を想定してきているが,今後は電磁場が初期的に一点に存在するところから拡散し,定常状態まで移行する過程についても調べていきたいと考えている.また,ブラッグ回折を導波原理とするフォトニック結晶光導波路における微弱信号の伝搬特性についても詳細に調べていきたいと考えている.これらの事項を明らかにすることで,測定過程を用いた微弱信号の能動的制御についての具体的な表式が得られる予定であり,本研究テーマの最終目的を達成に近づくものと考える.
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