|
半導体レーザーは外部共振器を設けることで容易にカオス発振することが知られており，この高速で広帯域な振動は様々な工学分野での応用が期待されている。本研究課題で注目した光カオス秘匿通信もそのひとつであり，これは従来のソフトウェア的な手法で作成された暗号コードを用いる秘匿通信（暗号通信）ではなく，半導体レーザーのカオス発振という物理現象に起因する秘匿通信である。
広く研究されている送信器と受信器のカオスを同期させる光カオス秘匿通信手法は，秘匿性への懸念が指摘されるとともに，外因やレーザーパラメーターの誤差によりビットエラーが生じる恐れがある。これに対し研究代表者らは2種類のカオスダイナミクスの差異を用いた手法を提案しており，実用化には簡易にカオス発振半導体レーザーのダイナミクスを制御することが必要である。本研究課題ではカオス発振半導体レーザーのカオス性（軌道不安定性）を制御する手法の構築を目的としている。
外部共振器を用いてカオス発振させた半導体レーザー（LD1，送信器を想定）を他の半導体レーザー（LD2，受信器を想定）に光注入する光学系を考える。LD1の駆動電流に疑似ランダム信号と，光学系とは独立なカオス信号を印加することで，カオス発振するLD2の軌道不安定性を制御可能であることを示した。印加する疑似ランダム信号について，軌道不安定性を増大させる効果が大きい周波数帯域が存在することが明らかとなり，それがLD2の周波数スペクトル帯域と一致することを示した。すなわち，レーザーカオス系の周波数スペクトルと同様なスペクトルをもつ複雑な信号を半導体レーザーの駆動電流に印加することで，効果的に軌道不安定性を強めることが可能となる。これにより低ビットエラーな光カオス秘匿通信が可能となる。さらに，もう1個のカオス発振半導体レーザーを追加することで，この効果を抑圧する手法を提案した。
|
