研究実績の概要 |
電子線照射によりアルカリハライド結晶内部で生成した欠陥が表面に到達すると,表面の原子が脱離し,単原子層高さの矩形ピットが生成される。配位数の少ないピットのステップ部分から優先的に脱離が起こり,電子線照射量を増やしていくとステップ密度の変化に応じて脱離原子収量が振動し,その振動周期は表面の原子の一層脱離が起こる照射量に相当する。また,電子刺激脱離した結晶表面に鏡面反射の条件で入射し,散乱したイオンビームの散乱強度も電子線照射量の増加とともに振動するため,この振動周期から表面原子の層状剥離に必要な電子線照射量を測定することができる。この手法とコンピュータシミュレーションによって表面形状と粗さの変化を予想した。また,振動周期の試料温度依存から結晶内に生成した欠陥の活性化エネルギーを見積もった。一方,この方法では表面粗さや表面一層のうち何割の原子が脱離したかは予想できるが,矩形ピットのサイズを見積もるのが困難であった。表面を観察する手法として原子間力顕微鏡観察があるが,電子線照射により生成した矩形ピットは空気中の水分と反応して消失してしまうため,真空槽から空気中に試料を取り出し観察することができない。そこで平成27年度は真空中で表面のレプリカをとり透過型電子顕微鏡で観察する手法を用いイオンビーム実験を補った。 イオンビーム実験結果から,試料温度が約400K以上になると欠陥の活性化エネルギーが見かけ上変化することがわかった。また,レプリカ観察結果から試料温度が高くなると矩形ピットのサイズが大きくなることが確認できた。試料の温度が高いとき表面に生成された矩形ピットを構成する原子が動き,ピットが連結することで優先的な脱離サイトであるステップの密度が変化し,その結果として見かけ上の活性化エネルギーが変化した可能性がある。これらの観察手法を応用することで表面形状の制御が期待できる。
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