研究課題/領域番号 |
26790070
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
大山 智子 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター, 研究員 (90717646)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 量子ビーム / 微細加工 / 機能化 / 医療・バイオデバイス / 足場 |
研究実績の概要 |
微細加工技術は様々な研究・開発のキーテクノロジーとなっており、今後ますます多様化するニーズに対応するためには、加工の微細化だけでは実現不可能な価値を付与する必要がある。本研究の目的は、複合的な量子ビーム(高度に制御された各種放射線)照射による微細加工技術と改質技術を組み合わせ、材料の形状と物理的・化学的特性をナノスケールで制御した多次元的機能材料を創製することである。初年度にあたる平成26年度は、バイオ・製薬・再生医療等の研究分野において応用が期待されるゼラチンを中心に研究を行った。ゼラチンのゾル-ゲル転移温度は体内環境や培養環境温度(37℃)に近く、通常は細胞毒性の高いホルムアルデヒド等を用いて架橋させることで耐熱性を向上させている。本研究ではゼラチンの放射線架橋を試み、照射による分解・架橋とそれに伴う機械的特性の変化をゲル浸透クロマトグラフィー、ゲル分率、粘弾性測定装置等で評価した。その結果、ゼラチンは放射線分解型であるが、水を含んだ物理ゲルの状態で量子ビーム照射を行うことにより、架橋剤を用いずに化学架橋ゼラチンハイドロゲルを作製することに成功した。体内や培養環境を想定した37℃水中でゲル分率とゾルの分子量の経時変化を分析した結果、得られたハイドロゲルは7日間安定であった。さらに、物理ゲルの濃度や照射線量を変えることでハイドロゲルの硬さを制御し、軟組織培養に適した10-100 kPaの硬さを持った足場材料を作成することに成功した。また、表面の微細加工技術の開発にも現在取り組んでいる。足場の硬さと形状は幹細胞の分化誘導などに大きな影響を及ぼすことが分かっており、生体適合性の高い機能性足場材料としての応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
複合的な量子ビーム照射による微細加工技術と改質技術を組み合わせて多次元的機能材料を創製するという研究目標に対し、1例目としてゼラチンを使った生体適合性の高い機能性材料の開発に成功した。この成果は学術論文(1件)および学会発表(3件)で成果を報告し、第15回放射線プロセスシンポジウムにおけるポスター発表では最優秀ポスター賞を受賞した。機能性足場材料への応用を目指して細胞応答性等の評価を開始しており、近く論文等で成果を報告できる予定である。他の材料についても、走査型プローブ顕微鏡等を用いた形状と物性の評価をもとに照射効果のマッピングを行うなど研究を進めており、機能性デバイス開発に向けた基礎的な知見を蓄積している。
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今後の研究の推進方策 |
電子線やイオンビームなど各種量子ビームによるエネルギー付与分布を活かして物質中に特殊なラジカルの分布を誘起し、機能性の多様化(高集積化)と 3次元制御を実現する。まず、試料への局所照射による機能付与部分の2次元パターニングを行う。次に、深さ方向へのエネルギー付与分布と、局所照射によるパターニングを組み合わせ、機能性分布の3次元制御を試みる。材料表面から機能のグラデーションを付ける「傾斜型」や、イオンビームのブラッグ・ピークを反映して内部の特定の深さに機能性を付与する「内包型」「多層型」など、様々な3次元分布が実現できると考えている。こうした局所機能化技術と、微細加工技術を組み合わせた多次元的機能材料を実現することが最終目標となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度の研究に必要とした機器の一部は、所属機関や共同研究先の設備を代替利用できたために、当初の計画に比べて必要金額が減少した。また、年度途中より産前産後休業に入ったため、一部出張等の予定を取りやめた。
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次年度使用額の使用計画 |
今後進める機能のパターニングや、作製した機能性デバイスの評価試験等には新たに機器・消耗品が必要となるため、残金は次年度以降に必要な経費として繰り越す。
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