本研究の目的は、複合的な量子ビーム(高精度に制御した各種放射線)照射による高分子材料の微細加工技術と化学的・物理的性質の改質技術を組み合わせ、多次元的に機能を発現させた材料を創製することである。 最終年度にあたる平成29年度は、バイオデバイスの代表的な母材であるポリジメチルシロキサン(PDMS)を、化学薬品を一切用いずに、電子線を用いて改質すると同時に微細加工する新技術を開発した。PDMSは透明で自家蛍光がほとんどない(蛍光観察を邪魔しない)安価な生体適合性高分子材料である。唯一の欠点である疎水性を改善するために、通常プラズマ照射による親水化処理が行われるが、その効果が処理後に急速に失われることが問題となっていた。本研究では電子線がPDMSに付与するエネルギー分布の3次元制御と照射雰囲気の調整によって、PDMS表面に厚さ数十μmの親水性の改質層を形成し、長期安定に親水性を保持させる技術を開発した。さらにこの改質でPDMSがSiOxリッチに変化して、照射部のみ体積が減少することを利用し、現像等の化学処理を一切せず、電子線照射の1工程だけで「親水化された凹部」を作製することに成功した。疎水性のPDMS基材に「親水化された凹部」が形成されるため、水をかけるだけで凹部に水滴がトラップされ、ドロップレットアレイを形成することができる。さらに1細胞培養・解析技術への応用を目指して直径と深さが数10μmの凹部を作製し、細胞を播種するだけで細胞を1つ1つトラップすることにも成功した(特許出願済、論文投稿中)。 本研究では、量子ビーム複合照射によって様々な高分子材料を多次元的に機能化することに成功した。開発した手法は化学薬剤を一切用いないことから、特に生体材料の機能化・微細加工技術として、今後の医療・バイオ応用が期待される。
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