研究課題/領域番号 |
26790072
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
小川 達彦 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究員 (20632847)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 重イオン / 核破砕片 / 角度分布 / 生成断面積 / 核反応モデル / 計算コード |
研究実績の概要 |
今年度は原子核破砕片角度分布に関して、断面積測定とシミュレーションモデル開発の両方を行った。実験については、放射線医学総合研究の加速器施設HIMACにおいて、炭素イオンをアルミや炭素の薄いターゲットに衝突させることにより破砕片を生成し、炭素イオンの破砕反応断面積を測定した。その際生成した破砕片は、電荷と質量を分離して断面積を求めたが、Li-6, Li-7, Be-7, Be-9, Be-10, B-10, B-11 の核を識別することができた。測定の結果、破砕片の99%以上をカバーする角度域(5°以内)で、破砕片の電荷と質量毎に断面積を測定することに成功し、高エネルギーで反応するほど、重い破砕片ほど前方性が高い等の傾向が見えることを確認した。 さらに、原子核ー原子核衝突反応を記述する量子分子動力学モデル(QMD)を改良し、その破砕片角度分布を再現することを試みた。特に核子間に働く相互作用の相対論不変化と、核子ー核子散乱断面積の媒質効果の調整により、原子核同士が掠れる周辺衝突反応がより正確に計算できるようになった。また、その修正前は計算上の理由で中心衝突反応も一部が無視されていたのを改め、インパクトパラメーターが0から原子核半径の和程度まで広がるようにした。この改良によって、これまで最前方方向で不足していたフラグメントの生成が増加し、実験値に近付いた。 この成果により、重粒子線治療や宇宙放射線防護において、人体がうける線量の絶対値や空間分布をより合理的に求めることに貢献できる。特に本研究で開発したQMD核反応モデル(RJQMD)は、国内で広く用いられている放射線輸送計算コードPHITSのバージョン2.76以降に実装されており、線量予測や遮蔽計算などに誰もが用いることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、今年度に測定システムを完成し、断面積測定を始めるところまでを予定していた。実験に関しては、予定通り測定システムを完成し、測定が可能になった。そして、その測定システムを用いて炭素ターゲットとアルミターゲットで断面積測定を実施し、信頼できる実験値を得ることができた。そのことに加えて今年は、2016年度のリリースを予定していた改良版の物理モデルの公開も行った。改良の元になったJQMDの物理過程の記述やプログラミング上の様々な問題を解決し、目的とする精度の向上を達成することができた。このことから、当初の目的を達したうえで、それ以上の速度で研究が進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
実験に関しては昨年度に完成した測定システムを用いて、さらに重いターゲット核に対して測定を実施、特に鉄と鉛ターゲットを用いた測定を予定している。これについては放医研のマシンタイム申請がすでに許可されており、6月にも実験を行う手はずになっている。 さらにモデル開発については、現在の問題点として計算がとても遅いことと、鉄や鉛などの重いターゲットについて精度があまり上がっていないことがある。したがって、今年度の実験結果を用いてモデルを検証し、不足している点があればそれを補って精度向上できるような改良を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度に購入したBGOシンチレータは、フランスのサンゴバン社の原材料を日本のメーカーが加工して製作したものであるが、円高の進行を考慮して高めに見積もっていた。しかしメーカーと交渉した結果、想定より安く調達することができたため少量の残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
2015年は国際学会への出張が二件あり、出張費は為替レートや航空券代金などにより変動しやすく、現在為替レートは当初予定より円安気味である。そのため残額は、他の費目を圧迫しないよう出張費の上昇分に充てる。
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