研究実績の概要 |
今年度も昨年度から引き続いて原子核破砕片角度分布の断面積測定と、シミュレーションモデルの開発の両方を行った。実験は放射線医学総合研究所の加速器施設HIMACを用いて、炭素イオンを鉛や鉄などの重い金属ターゲットに照射することで破砕片を生成し、炭素原子核の破砕断面積を測定した。破砕片の電荷と質量の分離に成功し、Li-6,7,Be-7,9,10, B-10,11 の核を識別することができた。前年度までの測定では炭素やアルミなどの軽いターゲットを使っていたため、破砕片の散乱角度は5°程度に限られていたが、鉄や鉛は破砕片の広がりを加味して10°まで測定することとした。 この実験結果を、原子核-原子核衝突反応を記述する量子分子動力学モデル(JQMD)を用いて再現を試みたところ、昨年度までに改良したJQMD-2.0はそれまでのバージョンJQMD-1.0と比べてより正確な断面積を出したものの、特に鉛ターゲットに対しては精度があまり良くない核種も存在することが確認された。昨年度のJQMDの改良は、核子間の相互作用をローレンツ不変に書き直すことで、原子核の座標変換に伴う崩壊(疑似反応)を防ぐものであったが、鉛のように重い核になると208個程度の核子すべてを安定させることは難しく崩壊してしまい、それが反応の記述に悪影響していることが示唆されている。 この成果により重粒子線治療施設や研究用加速器における遮蔽材や加速器部材の放射化・二次放射線生成に関する新しいベンチマークデータを得ることができた。また、今後モデルをどのように改良すれば計算精度が上げられるかの指針も得られた。
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